覚え書:「認知症、世界に学ぶ 京都市で国際会議」、『朝日新聞』2017年05月12日(金)付。
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4月下旬に京都市で開かれた認知症国際会議。繰り返し語られたキーワードは「当事者」でした。認知症の本人を指したり、家族や支援者も含めたり、意味に幅はあります。しかし共通していたのは、認知症に優しい社会を実現するには、当事者の視点が欠かせない、ということでした。
■「地球規模の問題になった」 国際アルツハイマー病協会事務局長、マーク・ウォートマンさんが振り返る
最終日の記者会見では、国際アルツハイマー病協会のマーク・ウォートマン事務局長が会議を振り返った。
今回は予防やケア、治療など多岐にわたるトピックで話し合われた。認知症に優しい地域社会についても、世界各地の様々なアプローチが紹介された。
(前回、日本で開かれた)2004年の国際会議と比較すると、認知症の本人の参加がより多かった点が特徴だ。社会が変わり、認知症の人がより受け入れられるようになっていると言えるだろう。参加した認知症の人は、約200人。以前よりも人数が増え、プログラムのなかで、色々なスピーチもあった。誇りに思っている。
13年前の会議の時は、認知症は北米やヨーロッパ、日本など、先進国の問題だった。しかし、今回はタイやインドネシア、アルゼンチンなどの人たちも多く参加した。アフリカからの参加者もいた。高齢化とともに、世界全体の問題になってきている。
課題も浮かび上がった。若い世代は子育てと同時に、父母の介護も担わなければならないことがある。これは我々が十分に目を向けてこなかった点だと思う。
■つなぐ、希望のリレー 当事者ら、ともに発信
高齢者のイメージが強い認知症だが、国際会議の中では、比較的若い時期に診断された認知症の人たちが積極的に、自己決定の重要性を語った。
「自分で選択したことをやる。1人ではなく多くのパートナーとともに。そのことで前向きに、認知症になってからの人生を切り開いているのです」
3日目に開かれたワークショップで、10年前にアルツハイマー型認知症と診断された藤田和子さん(55)=鳥取県=は壇上から会場に、そして広く社会に向けて語りかけた。
ワークショップのタイトルは「認知症とともに生きるわたしたちからの希望のリレー〜当事者から当事者へ」。主催は、認知症の当事者たちが政策提言などをする「日本認知症ワーキンググループ」。藤田さんはその共同代表だ。
壇上には藤田さんら認知症の本人たちが並んだ。不安や絶望を経て公の場で語るようになった彼らが発したのは、「認知症の人は支援されるだけの存在ではない」というメッセージだった。
座長も務めた丹野智文さん(43)=仙台市=は「水平な立場で一緒に活動したい」。茨城県の女性(58)は「最初から手出しはしないで。本当に必要なことだけサポートしてほしい」。
会場には認知症の人が自らを語る先駆けとなった豪州の元官僚、クリスティーン・ブライデンさんら海外の当事者たちの姿も。ブライデンさんは、13年前に日本で開かれたこの国際会議で、認知症を「心が空っぽだという偏見によって引き起こされる社会の病気でもある」と訴えた。
マイクを渡されたブライデンさんは「(13年前にこの国際会議で)リレーのバトンを渡すと発表したことを覚えています」と振り返り、「みなさん、本当にすばらしいリレーを走って下さっている」。
藤田さんは笑顔で応じた。「バトンを受け取り、今、走っている。みなさんも一緒に走ってほしい。それが希望と尊厳を失わない社会づくりを加速させる」
■国内の5団体、一堂に
認知症に関しては、症状や当事者ニーズに沿った団体が次々誕生し、活動する時代になった。2日目は、国内五つの当事者団体が集まるワークショップが開かれた。
認知症国際会議が前回日本で開かれた2004年当時、国内の全国的な当事者団体は、国際会議を主催する「認知症の人と家族の会」のほかは見当たらなかった。その後、「レビー小体型認知症」や「若年認知症」の問題に光が当たり、「男性介護者」や、自ら社会へ発信する「認知症の当事者」も増えた。その結果、それぞれ全国的な団体が生まれた。
レビー小体型認知症サポートネットワーク東京の長澤かほる代表は「団体一つひとつが小さなジャブを打つよりも、大きなパンチを打つために、5団体が協力して考えて、提言していくといいのではないか」と話した。
閉会後の記者会見で「認知症の人と家族の会」の高見国生代表理事は、47都道府県のすべてにいずれかの団体の窓口がある点を強調。5団体の連携により、相談したい人が地元の団体を通じて自分に合った団体につながりやすくなると、意義を語った。
「認知症の人と家族の会」と国際アルツハイマー病協会の共催。同協会は毎年各国で国際会議を開いており、日本での開催は2004年に続き2回目。今回は約70の国と地域から約4千人が集った。4月26〜29日の期間中、人権やケア、テクノロジー、医療経済学など多彩なテーマで、約200の講演と約400のポスター発表があった。世界保健機関(WHO)によると、認知症の人は全世界に4750万人(15年時点)。50年までに3倍近くに増える見込みで、世界的な課題となっている。
■国際会議で発表された取り組みの一部
(1)イギリス
<卓上ゲーム使って> 認知症の人と介護者が楽しむ。サイコロを振ってカードを選び、書かれている質問に答える。生活上の困りごとやしたいことが自然に分かる。
(2)イラン
<小学生対象に教育> アルツハイマー協会がテヘランで教育委員会の協力を得て認知症教育を実施。4500人の小学5年生を対象にした。専用パンフレットも作成。
(3)インド
<演劇で巡回型啓発> 演劇による巡回型の認知症啓発キャンペーンをケララ州で実施。認知症になった70歳の男性が主人公。著名な俳優らも参加した。
(4)日本
<生け花も楽しんで> 花を生けるだけでなく、選ぶ、切る、観賞することを大切にする。症状が緩和したり、生活自立度が向上したりすることがあるという。
(5)カナダ
<個々のケア考えて> 各国からの移住者が暮らす、多様な国民性。このため、文化的背景を含め、個々人に合わせたケアが大切との発表があった。
(6)アルゼンチン
<カフェに集まって> 認知症カフェに本人や家族が集い、心理学など専門家の講義に学ぶ。プロの音楽家が演奏し、情熱的な音楽に合わせダンスを楽しむ人も。
(7)オーストラリア
<訓練犬と共同生活> 認知症の人向けに訓練した犬を飼ってもらう取り組み。「散歩に出かけるようになった」「精神的に落ち着いた」などの感想が。
<スマホで仮想体験> アプリをダウンロードしたスマホを紙箱にセット、箱をのぞけば認知症の人の世界を仮想体験できる。アルツハイマー協会が作った。
◆この特集は、北村有樹子、清川卓史、十河朋子、友野賀世、浜田知宏、森本美紀、楠本涼、山田英利子が担当しました。
■デジタル版に「介護とわたしたち」http://t.asahi.com/j4f7別ウインドウで開きます −−「認知症、世界に学ぶ 京都市で国際会議」、『朝日新聞』2017年05月12日(金)付。
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http://www.asahi.com/articles/DA3S12933077.html