覚え書:「ちいさな国で [著]ガエル・ファイユ [評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)」、『朝日新聞』2017年07月30日(日)付。
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ちいさな国で [著]ガエル・ファイユ
[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)
[掲載]2017年07月30日
[ジャンル]文芸
人は、なぜ、争うのだろう。なぜ、憎み合うのだろう。誰も幸せにならないのに。そんなことはみんなわかっているのに。
著者はフランスの詩人、ラッパー。ブルンジで生まれ育ち、フツ族とツチ族の民族抗争を逃れてパリに移住した。この物語は、著者のアイデンティティを重ねた主人公の一人称で語られる。
フランス人の父とルワンダ出身の母。めぐまれた日常。明るくやんちゃで、ちょっとほろ苦い、少年期の思い出。
だが、激動は静かに、ひたひたと迫ってくる。一見穏やかな日々の下で「仄(ほの)暗い地下の力が間断なく働き、暴力と破壊」の圧力が溜(た)まっていく。抑圧は恨みを膨らませ、恨みはさらなる憎しみを解き放つ。「ぼくはもう、どこにも住んではいない」という主人公のモノローグが、胸を打つ。
繊細な心理描写と心地よいテンポ。読者の心臓は鷲掴(わしづか)みにされる。ガエル・ファイユ、ただものではない。
−−「ちいさな国で [著]ガエル・ファイユ [評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)」、『朝日新聞』2017年07月30日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2017073000012.html