覚え書:「文化の扉 閣議決定の重みって 首相「一強」、意向反映したもの増加」、『朝日新聞』2017年06月11日(日)付。

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文化の扉 閣議決定の重みって 首相「一強」、意向反映したもの増加
2017年6月11日
 
グラフィック・永井芳
写真・図版
 閣議は重い。行政をつかさどる内閣の統一見解を決める場だから、国家の命運を握っているともいえる。内閣の意思としてまとめられる「閣議決定」が最近、ことさらニュースをにぎわす機会が増えている。

 「あなたの国は誰が決めるの?」と米大統領特使が官房副長官に問う。次の瞬間「被害者救済と復興の特別法律案 閣ログイン前の続き議決定書」が映し出される。映画「シン・ゴジラ」の一場面だ。

 閣議決定が国を動かすイメージは強い。憲法の解釈を変更し、集団的自衛権の行使を認めた3年前の閣議決定は強い批判を受けた。国会議員の質問主意書への答弁書も、閣議決定をする。「首相夫人は私人」と定義し、話題は尽きない。

 朝日新聞の記事データベースで「閣議決定」を検索すると、2006年の第1次安倍内閣発足から2年半は約1300件。第3次安倍内閣発足から2年半は約2200件と、倍近くだ。

 閣議は昔からある。1885年12月22日、伊藤博文が初代首相に就任。翌日午後1時には閣議を開く、と各大臣に通達している。今は内閣法に基づき、首相が主宰。原則毎週火、金曜に全閣僚が官邸に集う。時間はわずか十数分。事前に官僚や与党内などで協議を重ねるからだ。

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 かつて大臣は名誉職、政務次官は「省庁の盲腸」とやゆされた。それが近年、政権の方針を反映した政策が難なく閣議決定に至る。なぜか。

 「政治主導」を強めるため、2001年、政務次官を廃止し副大臣政務官が新設。「官主導」だった政策立案も変化してきたという。副大臣や閣僚経験のある自民党林芳正参院議員は「法律起案前から(官僚から)相談があって、こうしましょうというのはしょっちゅうある。昔とは変わってきた」と話す。

 与党の変化もある。かつては、ねじれ国会による「決められない政治」が続いた。「(自民党政権なのに)人気のない政策には反対する人が出てきた。1年しかもたない政権に忠誠を誓うより聞こえの良いことを言いたいと、一体感がなくなった」

 政権復帰後、ねじれが解消すると、「決める政治」を志向するようになったという。集団的自衛権の行使容認など、閣議決定の報道が増えた時期とも重なる。「議論しても、決まったら『一枚岩』でないといけないという反省がある」

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 「一枚岩」は問題もはらむ。『自民党――「一強」の実像』(中公新書)をまとめた一橋大の中北浩爾教授は「首相の権力が強まるような図式が出来ている」と指摘する。長い行政改革の歴史から、意向が反映しやすい構造ができたからだ。

 官僚は、内閣人事局が幹部人事を一手に握る。党は族議員や派閥の弱体化が進む。「法の番人」として関門になるはずの内閣法制局の人事に手も入れた。

 議論積み上げ型の意思決定ではなく、首相「一強」の意思による一枚岩ができあがる。「ひまわりが太陽を向いて動くのと同じように、忖度(そんたく)が働く」

 あまりに内閣が強いと、三権分立も崩れかねない。本来、国権の最高機関は「国会」だ。成蹊大の高安健将教授(政治学)は「閣議決定はあくまで政府内の意思統一。これまでの憲法解釈や法律、国会決議と矛盾する場合には、勝手に行ってよいものではない」と指摘する。

 ねじれはブレーキが利き過ぎ、一強はアクセルばかりの「決めすぎる政治」を生む。閣議はそのバロメーターとも言える。「最後の砦(とりで)は民意。与野党の支持とは別に、大事な問題には意思を表明するべきです」(高津祐典)

 ■何やっても良いのか 作家・平野啓一郎さん

 質問主意書への答弁の閣議決定は特別なものではありませんが、「首相夫人は私人」だとか、無理あるものが乱発され、違和感を持たれています。制度設計したときには意図しなかったことが、意味を変えて使われることがあります。閣議決定もそうなりつつある。内閣法制局のチェックが機能しなければ、過剰な重みを持つ。それが一番の懸念です。

 支持率が下がらないから、政府が、何をやっても良いと思っているのではないでしょうか。社会の安定性、予測可能性も失われた時代になっていますし、テロのリスクが高まるなかで、みんな何をしたらいいかわからない。だから株高だけは維持してもらい、成功している実感はないけれど、他には目をつむる。

 ナショナリズムの高まりはどの国でもみられることで、強いリーダーにあこがれる面もあります。でも国家に依存先を求めると、何でも認めざるを得なくなる。国家権力に安心を求める方向が国の停滞を生んでいるんじゃないでしょうか。政府の状態を国民が冷静に判断しないといけないでしょう。

 <調べる> 閣議の概要は首相官邸のホームページ(http://www.kantei.go.jp/別ウインドウで開きます)で公開している。閣議案件のバックナンバーも1997年から閲覧できる。2014年4月以降、開催から約3週間後には「閣議及び閣僚懇談会議事録」も読めるようになった。
    −−「文化の扉 閣議決定の重みって 首相「一強」、意向反映したもの増加」、『朝日新聞』2017年06月11日(日)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12983008.html





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