日記:私たちは都市のあり方を見なおすべき時期にきているのではないだろうか。

        • -

 地方が創生すること。都市が再生すること。地域が活性化すること。それはどういう状態をさすのだろうか。若者が安心して子供を産み育て……。高齢者が元気でいきいきと……。減少と超高齢化が同時進行する地方都市の再生を語るならば、経済的な側面は避けて通ることはできないだろう。端的に言えば、地域のGDPが増加し、市民の所得が上昇することである。もちろんお金がすべてとは言わない。しかし、高齢化への対策や保育所や教育の無償化など子育て支援にも金はかかるのは事実である。経済成長があって税収が増えて(もしくは維持することができて)はじめて、少子高齢化する社会に必要とされる様々な公共福祉の維持も可能になる。
 農業にせよ、観光にせよ、飲食などのサービス業にせよ、従来の地元産業にイノベーションを起こすような人材、あるいは、まったく新しい産業を興すような人材、要するに生産性の高い人材が、他の自治体ではなく我が自治体を選んでくれることが重要である。人口四五万人の地方都市から第二のシリコンバレーになったオースティンのように、と言うとハードルが高すぎるように聞こえるかもしれないが、人口戦略の基本的な目標は、人口の頭数を揃えることではなく、生産性の高い人口の確保でなければならない。
 前述のリチャード・フロリダは言う。「多くの都市は建造物、つまりスタジアムや高速道路、都心のショッピングモールやテーマパークもどきの観光娯楽施設にばかり注目しているが、このような箱物は、クリエイティブ・クラスにとって無意味であり、魅力としては不十分、あるいはつまらないものである。クリエイティブな人々が求めるものは、質の高い快適さや経験であり、あらゆる多様性に寛容で、そして何よりもクリエイティブな人間というアイデンティティを発揮できる機会なのだ」。
 いま東京だけでなく全国の主要都市で、大規模な再開発事業が目白押しである。中心部の旧い小さな街区は一掃され、広大にまとめられた敷地に高層マンションとチェーン店ばかりの商業からなる複合施設が建つ。郊外は、広大なバイパスと巨大なショッピングモールと戸建分譲住宅。そのようにして日本中の都市が均質化されている。そこで失われていくのは、『Sensuous City[官能都市]』で提示した、都市の個性と多様性、そこでの生活の官能性だ。それはリチャード・フロリダの言う質の高い快適さや経験にほとんど等しいものである。
 優秀な人材を惹きつける都市の魅力を磨かなくてはならない。そのためにはまずは、自分たちの魅力は何であるのかを、正しく測定し共有する必要があるだろう。例えば新築の持ち家一戸建てがどれほど幸福なことなのか、巨大ショッピングモールでの消費がどれほど豊かなことなのか。中心市街地の通過交通が多いことが本当に都市の生産性を上げるのか。それとも都市の魅力とはそのようなハードの充実がもたらすものなのか。私たちは都市のあり方を見なおすべき時期にきているのではないだろうか。
    −−島原万丈「センシュアス・シティから見る地方都市の魅力」、飯田泰之編『これからの地域再生晶文社、2017年、91ー93頁。

        • -


Resize7117

これからの地域再生 (犀の教室)

晶文社
売り上げランキング: 264,672