覚え書:「世界からバナナがなくなるまえに―食糧危機に立ち向かう科学者たち [著]ロブ・ダン [評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)」、『朝日新聞』2017年09月24日(日)付。

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世界からバナナがなくなるまえに―食糧危機に立ち向かう科学者たち [著]ロブ・ダン
[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)
[掲載]2017年09月24日
[ジャンル]科学・生物
 
■広がる単一品種栽培への警鐘

 警告の書だ。世界中から食糧がなくなるかもしれない。作物が病気で全滅するかもしれない。
 現在栽培されている作物の多くは単一品種になっている。ジャガイモ、カカオ、バナナ、コーヒー、キャッサバ、そして食べ物ではないけれどゴム。どれも野生状態なら何千という品種があったのに、今は世界中でほぼ一種類だけの品種が栽培されている。経済性を追求した結果である。
 それが病気にやられたら、世界の食糧事情は壊滅的打撃を受ける。一九世紀アイルランドのジャガイモ飢饉(ききん)を思いだそう。百万人以上の命が失われた。そして先に挙げた作物の多くは、同じような事態をすでに経験している。
 世界中の農民や研究者たちは、病原体から作物を守るために、血の滲(にじ)むような努力を続けてきた。病原体の天敵を放す。さまざまな種類の種子を保存しておく。農家の情報をSNSでつないで病気対策を支援する、などなど。しかし、病原体はいつか必ず作物を見つける。この地球上に、栽培植物の安住の地はない。
 やるべきことは、これらの地道な研究者たちに、もっと力を与えることだ。とにかく私たちは栽培植物について何も知らない。これでは対策の立てようがない。おまけに資金も人手も足りない。細々と続いていたプロジェクトも、愚かな政治によって長年の蓄積が雲散霧消してしまう。かつてのソ連や最近ではシリアで、悲劇的な崩壊があった。このくだりは涙なくしては読めない。
 著者は、一般消費者にもできることがあると呼びかけている。地元の産品を買うこと。そうすることで、地域農家が細々と続けている少数品種の栽培が維持され、多様性の維持につながるかもしれないから。
 未来は明るくない。だが、今よりほんの少し明るくすることは、ぼくらの手でできる。著者は、静かに、しかし力強く、そう語っている。
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 Rob Dunn 米ノースカロライナ州立大教授。著書に『わたしたちの体は寄生虫を欲している』など。
    −−「世界からバナナがなくなるまえに―食糧危機に立ち向かう科学者たち [著]ロブ・ダン [評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)」、『朝日新聞』2017年09月24日(日)付。

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