覚え書:「高架線 [著]滝口悠生 [評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)」、『朝日新聞』2017年11月05日(日)付。

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高架線 [著]滝口悠生
[評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)
[掲載]2017年11月05日
 
 都心と郊外を結ぶ鉄道には、JR中央線のように高架が延々と続く線もあれば、西武新宿線のように高架のほぼない線もある。一方、池袋を起点とする西武池袋線は、四つ目の桜台から高架になるものの、九つ目の石神井公園を過ぎるとまた地上に戻ってしまう。
 この小説では、池袋から二つ目の地上駅、東長崎の近くにある古アパート、かたばみ荘が舞台となっている。かたばみ荘の住人たちは、入れかわってもみな上り電車で池袋に出る。だがふとしたきっかけで、下り電車に乗る場合がある。そうすると不意に高架になって視界が広がり、見たことのない地平が現れる。
 西武池袋線の沿線に長く住んでいた滝口悠生は、この線ならではの高架区間から見える風景を小説に昇華させた。池袋―東長崎間の日常が高架線によって破られるばかりか、その先に思わぬ運命が開かれるかたばみ荘の住人、片川三郎の生き方に、著者の分身を見たような気がした。
    −−「高架線 [著]滝口悠生 [評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)」、『朝日新聞』2017年11月05日(日)付。

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