覚え書:「核DNA解析でたどる−日本人の源流 [著]斎藤成也 [評者]宮田珠己(エッセイスト)」、『朝日新聞』2017年12月10日(日)付。

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核DNA解析でたどる−日本人の源流 [著]斎藤成也
[評者]宮田珠己(エッセイスト)
[掲載]2017年12月10日
 
■縄文系、弥生系とは別の集団も

 ここ数年で革命的に進歩した遺伝子研究の成果をもとに日本人の起源に迫る。
 読んでみたら思わぬことが書いてあって驚いた。
 日本人はどこから来たのか。これまでの定説は、次のようなものだった。
 旧石器時代、最初に日本列島に移住してきた人々の子孫が縄文人になり、その後北東アジアから別の集団(弥生系)が渡来、先住民である縄文人と混血をくりかえし、これが現在日本列島に居住する多数派の「ヤマト人」になった。一方、列島北部と南部にいた縄文人の子孫は、この渡来人とはあまり混血せず、それぞれ「アイヌ人」と「オキナワ人」の祖先となっていった。
 今では広く信じられているこの説は、現在の日本人集団の主な構成要素を縄文系と弥生系のふたつから説明したことから、二重構造モデルと呼ばれている。
 しかし解析の結果、このモデルでは説明しきれない新たな事実が浮かび上がってきた。
 一番の驚きは、縄文人と渡来系弥生人以外に、もうひとつ別の集団が日本列島に移住してきた可能性が見えてきたことだ。
 本書によれば、縄文時代後期の約4400年前から3000年前にかけて、起源ははっきりしないが、「海の民」と思われる集団が日本列島に移住していたことが推測されるという。彼らは、第一波渡来人(縄文系)と混血しながら人口を増やしていった。その後約3000年前から1700年前になると第三波の集団(弥生系)が到来、第一波の東北にいた子孫は北海道へ移り、その穴を埋めるように第二波の子孫が東北に居住し、さらには沖縄へも移住していった。
 面白い! これまでの考古学の知見とは異なるが、これらの成果を考古学に取り込んでいけば新しい歴史像が浮かびあがってきそうだ。たとえば国ゆずり神話における土着の神は、縄文系ではなく、この第二集団の神だったかもしれない。目が離せなくなってきた。
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 さいとう・なるや 57年生まれ。国立遺伝学研究所教授。著書に『日本列島人の歴史』『歴誌主義宣言』など。
    −−「核DNA解析でたどる−日本人の源流 [著]斎藤成也 [評者]宮田珠己(エッセイスト)」、『朝日新聞』2017年12月10日(日)付。

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