覚え書:「軍事研究、大学内に指針「ある」3割 朝日新聞調査」、『朝日新聞』2017年09月03日(日)付。


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軍事研究、大学内に指針「ある」3割 朝日新聞調査
竹石涼子、杉原里美2017年9月3日


「安全保障と学術の関係」と題して開かれた日本学術会議のシンポジウム。研究者ら約300人が軍事研究について議論した=2017年2月、東京都港区の同会議講堂
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 国立大の全86校と国の補助金交付額が多い私立大30校の計116校に朝日新聞が調査したところ、軍事的研究について、学内に研究指針などの基準を持つ大学が3割にとどまることがわかった。国内の科学者でつくる「日本学術会議」は3月、大学などの研究機関に対して軍事的研究を技術的、倫理的に審査する制度を求める声明を出したが、整備が進んでいないことが浮かんだ。

 軍事的研究について研究指針、学長声明、理事会決定など判断基準となる「決まり」を持つ大学は国私立合わせて30%にあたる35校。このうち、軍事的研究を「一切認めていない」と答えたのは26校だった。

 さらに、防衛装備庁が研究にお金を出す「安全保障技術研究推進制度」への応募の可否について、「最終判断は個人の判断に委ねられるべきと思うか、大学の判断に委ねられるべきと思うか」尋ねたところ、「大学」が国私立合計で80校と全体の69%を占めた。推進制度について大学が判断すべきだとする一方、大学で判断の基準づくりが進んでいない実態もわかった。

 調査は6〜7月にかけ、全国立大86校と、私立大のうち国の経常費補助金交付額(2015年度)の上位30校の116大学を対象に行った。99大学が回答し、回答率は85%だった。

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 〈安全保障技術研究推進制度〉 防衛装備庁が国の防衛分野の研究開発に役立つ基礎研究を民間企業や大学に委託し、お金を出す制度。同庁職員が研究の進み具合を管理、指導するなど国が研究に関与する度合いが高いとされる。初年度の15年度予算では3億円、16年度では6億円、17年度は110億円に急増した。

■防衛装備庁の制度、認めず「学問をゆがめる」

 調査からは、軍事的研究の中でも金額が急増する防衛装備庁の推進制度に対し、各大学の姿勢が割れている現状がうかがえる。

 調査で、防衛装備庁の推進制度への応募を認めないとした26校の一つ、明治大は「社会連携ポリシー」で、推進制度を「露骨な軍事研究への誘導は日本の学問研究をゆがめる」とする。土屋恵一郎学長は「産官学の連携に軍を加えようとする動きがある。戦後から現在に至るまで、世界の不安定化は持続的な平和の戦略より、軍事的実力行使によって問題を解決しようとしたことに起因する」とした。

 また、新潟大は2015年、推進制度を機に「科学者行動規範、科学者の行動指針」を一部改正。「軍事への寄与を目的とする研究は行わない」との文言を盛り込んだ。高橋均副学長は「公表した成果を専門機関が軍事に使うことまでは否定しないが、防衛装備庁からのお金は明らかに出発点が違う」とする。研究資金が不足する中、推進制度への応募希望や防衛省との共同研究の申し込みの事前相談もあったといい、高橋副学長は「指針を周知し、学内で早めに相談できる体制を整えた」という。

 研究者から推進制度への応募希望があった秋田大は学内の方針に基づいて認めなかった。秋田大は「軍事や安全保障に係(かか)わる機関による研究助成や軍事関連機関が資金提供元となる研究は行わない」とする方針を決定。長崎大も「防衛省の役割を鑑みると将来、軍事目的に使用できる技術の開発を目指していることは明白だ」とした。

 防衛装備庁の推進制度に慎重な姿勢を示した日本学術会議の声明を尊重した大学も複数ある。室蘭工業大は今年5月、推進制度への応募を認めない方針を決めた。学内のワーキンググループ委員長の馬場直志理事は「小さな単科大学で個別に審査できる問題ではない」とし、「学術会議の声明は工学系も含めて学際的な検討をした結果であり、これを尊重することが妥当と判断した」という。

■制度利用容認の大学も「制限はしたくない」

 一方で、防衛装備庁の推進制度を「軍事的研究」とみなすかどうか、判断も難しいようだ。

 調査で、防衛装備庁の推進制度の利用が「軍事を目的とする研究につながる」かどうか尋ねたところ、26校が賛同、5校が反対だったが、57校が「どちらともいえない」と答えた。応募を認めた大学も含め、判断に迷う様子がうかがえた。

 17年度、推進制度に応募希望が「あった」と答えたのは国立10校、私立3校で、このうち応募を「認める」としたのは熊本大、鹿児島大、岐阜大、東海大東洋大だった。

 このうち2件の応募希望があった熊本大では、具体的な指針などがない中、自動車や医療などの分野で応用が見込めるとして1件を認めた。民生分野への利用が確認できなかった1件は研究者自身が取り下げた。同大の土井昭人・研究推進課長は「軍事研究はしないという基本スタンスは変わらないが、大学として研究の制限はできるだけしたくない。個々のケースで判断する」と話す。

 鹿児島大は今年4月末、軍事研究全般について議論する委員会を設けた。今回、応募があり、熊本大と同様に「民生目的での貢献が大きい」として認めたが、今後は方針の変更もありうるという。(竹石涼子、杉原里美)

■2015年度、16年度に安全保障技術研究推進制度採択の研究に参加している大学

15年度 神奈川工科、東京電機、豊橋技術科学、東京工業、九州工業

16年度 大阪市立、東京理科、東京農工、北海道、山口東京理科、岡山理科

※今年度参加の4大学の名前は未公表
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