覚え書:「インタビュー 白人至上主義の病巣 米チャップマン大学准教授、ピート・シーミーさん」、『朝日新聞』2017年09月15日(金)付。


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インタビュー 白人至上主義の病巣 米チャップマン大学准教授、ピート・シーミーさん
2017年9月15日

写真・図版
ピート・シーミーさん

 米バージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者が反対派に車で突っ込み、1人を死亡させる事件が起きた。他人種への嫌悪をむき出しにする姿は内外に衝撃を与えた。白人至上主義者にインタビューを重ねてきた研究者の言葉からは、米国社会の抱える病や、何が差別を生み出すのかという普遍的な問いかけが浮かび上がる。

再びうごめく白人至上主義
 ――むき出しの白人至上主義に驚きました。研究者としても驚きがありましたか。

 「衝撃的な事件ですが、驚きはありませんでした。米国には白人至上主義がずっと存在してきた。(黒人を迫害した団体)KKK(クー・クラックス・クラン)の歴史は、奴隷制を維持しようとした南部州が廃止を目指した北部州と戦った南北戦争(1861〜65年)直後までさかのぼる。こうした勢力はこの20年ほど、目立たないように活動を続けてきた。今、公然とやっていくときがきたと考えているのです」

 ――白人至上主義とはどんな考えですか。

 「人種は確固たるもので、人種ごとに固有の特徴があると考える。いろんなグループがあるが、共通しているのは『人種としての白人や白人文化が絶滅の危機に立たされている』という危機感です。多文化主義、政治的正しさ、自由主義といった価値観が強まり、自分たちが脅かされているという被害妄想がある。ユダヤ人が世界を制覇するという陰謀論に駆られ、移民への反感が強い」

 ――なぜ絶滅すると。

 「白人が攻撃にさらされているという思いには長い歴史があります。南北戦争直後でさえ、解放された奴隷が白人の脅威になるという受け止めは強かった。この数十年間は中南米からの移民などで人種構成が変化している。2050年に白人の人口比率が5割を切るという推計もあり、グループの危機感は強まるばかりです」

 ――思想的ルーツはどこに?

 「直接つながっているという意味でいうとKKKです。南北戦争後、敗れた南部州地域でKKKのようなグループがたくさん生まれ、黒人や合衆国再建に好意的な白人を何千人も殺した。ある意味では彼らは南北戦争後の『第2の内戦』に勝利したと言えます。南部は戦争には負けたが、解体されたわけではなかった。小作人制度というほとんど奴隷制と変わらない経済システムを生みだし、人種隔離を制度化した。『南北戦争に勝ったのはどちらだったのか』という疑問さえわきます」

 ――各地に奴隷制を守ろうとした南部側の英雄像があります。撤去の動きが進む一方、撤去反対という米国民も多いようです。

 「それこそがこの問題がどこまで深く根ざしたものなのかを示しています。撤去すべきでないと考えるのは我々が事実と異なる歴史を教えられてきたから。南北戦争を戦った後、南部は合衆国に復帰して再建され、幸せになった。そういう歴史を教えられてきた」

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 ――白人至上主義者はどこにいるのですか。

 「どこにでもいます。ここカリフォルニア南部も白人至上主義の長い歴史がある。1920年代はKKKが活発に活動し、80、90年代はネオナチが勢力を伸ばした。南部だけの問題ではないのです」

 ――白人至上主義者というとスキンヘッドで入れ墨、筋肉もりもりというイメージだが、シャーロッツビルの集会には見かけは普通の人たちもいました。

 「強烈な写真や映像が頭にこびりついているからそう思いがちですが、必ずしもスキンヘッドでもないし、KKKのようでもない。普通にビジネスジャケットを着ている人もいれば、どこにでもいる大学生のような人もいる。教養があり、知的な人もたくさんいる。貧しく、崩壊した家庭出身の人もいれば、弁護士や医者など裕福な家庭の人もいる。ステレオタイプにとらわれていると、白人至上主義がどれだけの広がりを持っているのか、吸引力を持っているのかを見誤ってしまいます」

 ――何がきっかけでこのような主義を抱くようになるのですか。

 「この5年、主義を捨てた100人ほどにじっくり話を聞きました。そこから見えるのは、子どもの頃になんらかのトラウマを負った人たちが多いということ。虐待を受けたり、親が育児放棄したりといったケースで、大人になるときには人生が下り坂、というような人が多い。過激な白人至上主義との出会いは、パンク音楽を聴きに行ってネオナチと知り合うとか、往々にして偶然です。間違ったタイミングで間違った場所にいてしまったということです」

 ――全米で何人くらい?

 「白人至上主義的なやりとりをしているあるオンラインフォーラムは会員が50万人。全員とは言わないが、大部分がそうでしょう。実際に活動するグループでは1千人規模のものもある」

 ――かなりの数ですね。

 「そういうことです。考えに共感している傍観者はもっとたくさんいる。白人至上主義ではないと言いながら、言っていることはほぼ同じ。『差別じゃないが、移民には反対。国境は閉鎖すべきだ。米国文化を守りたい』とか」

 ――幅広い土壌があるようだ。

 「まさにその通り。しかも、過去数年でさらに広がっている。初のアフリカ系米国人のオバマ氏の大統領当選は非常に劇的なものでした。米国が多文化を受け入れているということを示した半面、非常に強い反発をまきおこし、揺り返しの動きも生まれた。人種構成の変化が重なり、イスラム過激派によるテロが移民問題とからめられた。白人が追いやられているという思いが強まり、多文化主義への理解といった我々が望んでいたのとは逆の動きが起きました」

 「そこへ『オバマ氏は米国民ではない』と主張する人物が大統領になった。移民反対、イスラム教と欧米の価値観が相いれないとの考え、黒人の権利向上への抵抗、陰謀論……。これらを体現しているのがトランプ大統領。トランプ氏は瓶のコルク栓を抜いたようなもの。白人至上主義者はトランプ氏を仲間だと考えている。彼らはこれまで『いずれ好機が来る。そのときに備えて力を蓄えよう』とやってきた。今まさにその好機が訪れており、これを利用しない手はないという考えがあります」

 ――昨年の大統領選で白人至上主義を公然と唱える「オルト・ライト」がトランプ氏を支持し、注目されました。

 「オルト・ライトとは伝統的な保守とは異なる保守主義者という意味ですが、中心的人物の考えは白人至上主義そのものです。オルト・ライトという言葉を使って白人至上主義のブランドを塗り替えようとしている。新しい呼び名を使うのは彼らが仲間を増やすのに非常に有利に働いている。次世代指導者が生まれつつあり、彼らは今後25年、50年と影響力を保つ可能性があります」

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 ――ソーシャルメディアの登場は影響を与えましたか。

 「ソーシャルメディアではいろんなことが冗談として扱われます。本来は非常に攻撃的なことが、大したことがないように。『ジョークだよ、ジョーク。なにを真剣に怒っているんだ。ユーモアが分からないか』と済まされ、白人至上主義をどこにでもあるようなものにしてしまった。ソーシャルメディアは人と人をつなげる上で大きな役割を果たしていますが、この問題においてもそう。これまでは知り合わなかったような人が知り合い、感化される」

 ――差別はなくなりませんか?

 「なくならないでしょう。私は多文化を尊重するよう育てられたが、カリフォルニアからワシントン州に引っ越して近所の子どもたちと遊んでいたとき、童歌に黒人の蔑称が含まれていて驚いた。普段は立派な同級生の父親が差別発言をするのを聞いたときも、『人種差別ってこういうことか』と思い知らされた。今はオンラインやソーシャルメディアで、露骨な人種差別が現れています。学校やほかの場所では言えないようなことがオンラインの世界ではまかり通る。残念ながら人種差別は我々の社会に深く根ざしています」

 (聞き手 ニューヨーク支局長・鵜飼啓)

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 Pete Simi 72年生まれ。97年から白人至上主義の研究に取り組む。接触した白人至上主義者は数百人に上る。

 ■「普通」の市民、偶然出会い共鳴 徳島大准教授・樋口直人さん

 日本の排外主義運動で目立つのは「在日特権を許さない市民の会」(在特会)です。在日コリアンなどを標的に2007年からデモを本格化させ、13年にピークを迎えました。一方でヘイトスピーチに抗議する「カウンター」の活動が起き、16年にヘイトスピーチ対策法ができるなど対応が進み、活動は頭打ちになっています。

 私は11年から、在特会の活動家ら34人に聞き取り調査をしました。運動に参加するのは大学卒など高学歴のホワイトカラーも多く、必ずしも社会の底辺で不満や劣等感を抱いている層とは限らないのは日米共通です。

 シーミー氏の研究には注目していました。白人至上主義者らに接触した貴重な調査ですが、注意すべき点もあります。シーミー氏が話を聞いた元活動家らの多くは人種的憎悪に基づく暴行などの犯罪(ヘイトクライム)で服役し、団体を脱会しています。極端な例をみれば、トラウマが背景となって白人至上主義に共鳴し、犯罪に走ったともいえるでしょう。ただ、犯罪に至らない大多数の参加者まで見ると、みながトラウマの持ち主とは限らないようです。

 日本の活動家でも犯罪に至る人はわずかで、トラウマが原因といえるほどではありません。むしろ「普通」の市民生活を送っていた人が、ある日ネットで排外的サイトを見たとか、友人に誘われ集会に行ったなどの偶然のきっかけで排外的な考えに共鳴し運動にのめり込んでいる。排外的な考えに寛容な家で育ったなどの素地がある人が多い。この傾向は日米で共通していると思います。

 米国の白人至上主義には南北戦争以降の長い歴史があります。日本の排外主義も、戦後の日本が戦争や植民地支配の清算をうやむやにしてきたことが背景にある、根深い問題と言えます。

 白人至上主義者は90年代以降、個人宅やライブハウスなどの閉じた場所やネット上の仮想空間で集まるのがせいぜいだった。トランプ大統領の出現をリアルな路上に出る好機ととらえたことが、シャーロッツビルの事件につながりました。

 ただ、白人至上主義者が活気づいた今でも、差別反対の声のほうがはるかに上回っている。深刻な問題ですが、差別を許さない取り組みは今後も続いていくと思います。

 (聞き手 編集委員・北野隆一)

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 ひぐちなおと 69年生まれ。専門は社会学ヘイトスピーチ在日コリアンなど研究。著書に「日本型排外主義」など。
    −−「インタビュー 白人至上主義の病巣 米チャップマン大学准教授、ピート・シーミーさん」、『朝日新聞』2017年09月15日(金)付。

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(インタビュー)白人至上主義の病巣 米チャップマン大学准教授、ピート・シーミーさん:朝日新聞デジタル