覚え書:「ファミリー・ライフ [著]アキール・シャルマ [評者]蜂飼耳(詩人・作家)」、『朝日新聞』2018年03月04日(日)付。

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ファミリー・ライフ [著]アキール・シャルマ
[評者]蜂飼耳(詩人・作家)
[掲載]2018年03月04日

■理不尽な出来事いかに慈しむか
 
 インドのデリーからアメリカへ移住し、新たな生活を始める一家。父と母、兄のビルジュ、弟のアジェ。本書は、少年だったアジェの目から捉えられた家族の日々を、回想的に描く小説だ。ある日、兄はプールで事故に遭う。その後遺症によって、本人も家族も苦しむことになる。学業優秀だった兄だが、決まっていた高校進学の道が閉ざされたばかりでなく、身のまわりのことも自分では出来なくなってしまう。家族の暮らしは一変する。
 状態は好転しない。父は酒に溺れ、母はやり場のない怒りに取りつかれたようになる。それでも、家族が兄を見棄(みす)てることはない。アメリカ社会での慣習の違い、人種や宗教の違いなどから生じる困難を少しずつ乗り越え、一家は変化に対応していこうとする。悲しみや苛立(いらだ)ちや罪の意識に襲われることがあっても、それらすべてを抱えて生きていくのだ。
 「僕」は本を読むようになり、ヘミングウェイ関連の書物に目を通す。やがて、自分でも物語の執筆を試みるようになる。「僕たちの苦しみが含まれる文章を書くのだ」という自覚が、十代半ばの少年を強く揺さぶる。「書くことは僕を変えた」。心に抱えるものを言葉に置き換える行為が、少年を成長させていく。
 脳に損傷を受けた兄は、もう一言も喋(しゃべ)ることはできず、目を開けた状態でも見えていない。兄の在り方を受け入れ、それに添いつつ、家族はかたちを変えていき、それぞれに年を取っていく。どのように生きても一生は一生だ。
 理不尽な出来事が人生に残す爪痕を、どうしたら直視でき、どのように慈しむことができるのか。この自伝的小説が発する問いは、どこに、いつの時代に生きても、多かれ少なかれ誰もが直面する悲しみや悔しさや怒りと結びつく。だからだろう、言葉による表現を読む、という体験についての、基本的な姿を何度も思い起こさせるのだ。
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 Akhil Sharma 71年インド生まれ。8歳の時、家族で米国へ移住。本書で国際IMPACダブリン文学賞など。
    −−「ファミリー・ライフ [著]アキール・シャルマ [評者]蜂飼耳(詩人・作家)」、『朝日新聞』2018年03月04日(日)付。

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