覚え書:「AIvs.教科書が読めない子どもたち [著]新井紀子 [評者]野矢茂樹(立正大教授)」、『朝日新聞』2018年04月14日(土)付。

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AIvs.教科書が読めない子どもたち [著]新井紀子
[評者]野矢茂樹(立正大教授)
[掲載]2018年04月14日

■「東ロボくん」の挑戦と限界

 世の中にはAIに関する発言が溢(あふ)れ、素人にはなんだかよく分からないことになっている。そんな中でこの本は、快刀乱麻を断つがごとく、いやあ、歯に衣(きぬ)着せぬとはこの本のことである。そしておそらく、ものすごい企画力と行動力をもっているんだろうなあ。著者は、東大合格をめざすロボット「東ロボくん」の開発者であり、また「全国読解力調査」を立ち上げ、子どもたちの読解力がどれほど危機的なものかを知らしめた人である。
 東ロボくんは偏差値で60近いところまで来ている。60ぐらいまではいけるだろう。しかし新井さんはそのあたり止まりと見ている。AIは数学の言葉で動く。だから、数学の言葉で捉えられることなら、AIは人間より強くなれる。だけど、それは与えられた枠組みの中での計算で、枠組みそのものを問い直すことなんかできないし、文章を入力してあたかも意味が分かっているかのような反応はできても、意味が分かってるわけじゃない。
 逆に言えば、枠組みを問い直す力、意味を読みとる力こそ、AIにない人間の力なのだ。じゃあ、私たちはそういう力をもっているか。子どもたちはどうか。そして、子どもたちの読解力を調べ始めた。結果は、こんな文さえ読めないのかと、慄然(りつぜん)とするものだった。「人間の未来にもっと危機感を持て!」と新井さんは喝破し、「でも道はある!」と励ましてくれる。
 私としてはなるほどと納得し、そうだよなあと共感するばかりなのだが、ちょっと待てよ。AIは数学の言葉で動くというのは、現在の技術の延長で考えればそうなのだろう。しかし、もしその前提が崩れれば、AIの可能性はさらに拡大するのではないか。分かってないと怒られそうだが、思考の前提を疑うのは哲学者のお家芸なのである。あ、そうそう。AIにはできない職業のリストに哲学者が入ってなかったのが、私には不満でした。
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 あらい・のりこ 62年生まれ。国立情報学研究所教授。著書に『数学は言葉』『コンピュータが仕事を奪う』など。
    −−「AIvs.教科書が読めない子どもたち [著]新井紀子 [評者]野矢茂樹(立正大教授)」、『朝日新聞』2018年04月14日(土)付。

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