日記:利用者と対等に、そして尊敬をもって向き合う始まり



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 ユニットの介護職員として遅番業務についた時期は結局半年以上に及んだが、しかし今から考えれば、その期間に私は貴重な経験をすることができたように思う。介護の現場で、介護職員たちがどれだけ業務に追われているのか、その状況を身をもって知った。一方で、業務のなかで同僚職員たちと関わっていると、私が想像していた以上に彼らが実はもっと利用者と話をしたいとか、利用者のことをもっと知りたいと強く思っていることもわかってきたのだ。介護民俗学という私のアプローチに限定されず、介護やケアという行為に人々が関わろうとするモチベーションも、もしかしたら、そうした「知りたい」「関わりたい」といった利用者にストレートに向けられた関心にあるのかもしれない、と思えるようになった。
 もちろん、現場の業務を遂行することと、知りたいという知的好奇心に素直になることのバランスをとるのは実に難しいことだ。しかし、知的好奇心とわかりたいという欲求、そしてわかったときの驚き、それが利用者と対等に、そして尊敬をもって向き合う始まりになる、それだけは確かなようだ。
    −−六車由実『驚きの介護民俗学』医学書院、2012年、217−218頁。

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