覚え書:「インタビュー トランプ政権への期待 映画監督、オリバー・ストーンさん」、『朝日新聞』2017年01月24日(火)付。

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インタビュー トランプ政権への期待 映画監督、オリバー・ストーンさん
2017年1月24日

最新作「スノーデン」は、27日公開。「米情報機関は私や映画の内容を否定するでしょう」=東京、仙波理撮影
 過激な言動で物議を醸すドナルド・トランプ氏が超大国のトップに就いた。政権批判の映画を世に出し続けてきた米アカデミー賞監督が「トランプ大統領もあながち悪くない」と意外な「評価」をしている。かつてはトランプ氏に手厳しい発言もしていたオリバー・ストーン監督に、真意を聞いた。

 ――米大統領選の結果はショックだったと米メディアに語っていましたが、ツイッターで「トランプを良い方向にとらえよう」とも書いていました。

 「ヒラリー・クリントン氏が勝っていれば危険だったと感じていました。彼女は本来の意味でのリベラルではないのです。米国による新世界秩序を欲し、そのためには他国の体制を変えるのがよいと信じていると思います。ロシアを敵視し、非常に攻撃的。彼女が大統領になっていたら世界中で戦争や爆撃が増え、軍事費の浪費に陥っていたでしょう。第3次大戦の可能性さえあったと考えます」

 「米国はこうした政策を変える必要があります。トランプ氏は『アメリカ・ファースト(米国第一主義)』を掲げ、他国の悪をやっつけに行こうなどと言いません。妙なことではありますが、この結果、政策を変えるべきだと考える人たちに近くなっています」

 ――トランプ政権下で、米国の介入主義は終わりを迎えると?

 「そう願っています。米軍を撤退させて介入主義が弱まり、自国経済を機能させてインフラを改善させるならすばらしいことです。これまで米国は自国経済に対処せず、多くが貧困層です。自国民を大事にしていません。ある面では自由放任主義かと思えば、別の面では規制が過剰です。トランプ氏もそう指摘しており、その点でも彼に賛成です」

 「トランプ氏はまともではないことも言います。かつてないくらいに雇用を増やすなんて、どうやって成し遂げられるのか私にはわからない。だがものすごい誇張だとしても、そこからよい部分を見いださねばなりません。少なくとも米国には新鮮なスタイルです」

 「彼は、イラク戦争は膨大な資産の無駄だった、と明確に語っています。正しい意見です。第2次大戦以降すべての戦争がそうです。ベトナム戦争はとてつもない無駄でした。けれども、明らかに大手メディアはトランプ氏を妨害したがっており、これには反対します。トランプ氏がプラスの変化を起こせるように応援しようじゃありませんか」

 ――プラスの変化とは?

 「例えばロシアや中国、中東、IS(過激派組織「イスラム国」)への新政策です。テロと戦うためロシアと協調したいと発言しており、これは正しい考えです」

 ――ロシアが米国にサイバー攻撃したとされる問題について、監督は疑義を呈していますね。

 「米国の情報機関について私は極めて懐疑的です。米中央情報局(CIA)は長年、多くの間違いを犯してきました。キューバのピッグス湾事件やベトナム戦争イラク大量破壊兵器問題です。米国は世界をコントロールしたがり、他国の主権を認めたがらず、多くの国家を転覆させてきました。そんな情報機関をけなしているトランプ氏に賛成です。だが、そうしたことは社会で広く語られません。米国社会のリーダー層と反対の立場となるからです」

 ――リベラル派が多いハリウッドは反トランプ氏が目立ちます。

 「そのリベラルと呼ばれてきた人たちが、ものすごい介入主義者と化しています。リベラルと言われるクリントン氏をみればわかります。民主党中道右派となり、左派を真に代表していません」

     ■     ■

 ――米政府による個人情報の大量監視を暴露したCIA元職員エドワード・スノーデン氏を描いた新作映画「スノーデン」を撮ったのはなぜでしょうか。

 「私は、いつも時代に合わせて映画をつくっています。2013年にスノーデン氏の暴露を知り、衝撃を受けました。米国が監視国家だという疑いが確信になりました。スノーデン氏の弁護士の招きでモスクワに行って以来、彼と9回会って話を聞いたのです」

 「映画はスノーデン氏の証言に基づいてつくっています。彼が09年に横田基地内で勤務していた頃、日本国民を監視したがった米国が、日本側に協力を断られたものの監視を実行した場面も描きました。スノーデン氏は、日本が米国の利益に背いて同盟国でなくなった場合に備えて、日本のインフラに悪意のあるソフトウェアを仕込んだ、とも述懐しています。これは戦争行為でしょう。あくまで彼が語る話であり、確認をとろうにも米国家安全保障局(NSA)側と話すことは認められませんでした。でも、私は経験上、彼は事実を話していると思っています。米情報機関は映画の内容を否定するでしょう。米大手メディアも取り合いません。でも、そこから離れて考えてほしいと思います」

     ■     ■

 ――米議会は昨年、スノーデン氏がロシアの情報機関と接触しているとの報告書を出しました。

 「まったくのたわ言。動機も見当たりません。彼は米国の情報活動が米国の安全保障に役立つ形で改善されることを願っています。彼はまず、ジャーナリストに情報を提供したし、今も表だって理想主義的な発言を続けています。スパイがやることではないでしょう」

 「スノーデン氏がモスクワに着いた時、経由するだけでロシアに滞在するためではなかった。空港でロシアの情報機関の職員から『私たちに出せる情報はないか』と言われ、『ノー』と答えたそうです。彼は出国したがっていました。南米諸国からは受け入れの申し出もあったようですが、米政府の手がおよび、安全が確保できそうにありません。結果としてロシアが最も安全だとなったのです」

 ――就任後、トランプ氏はCIAの影響で反ロシアに陥るかもしれないと懸念していますね。

 「彼がそうなる可能性はあるでしょう。でもトランプ氏はビジネスマン。貿易を好む限り、ビジネスマンは戦争をよしとしません」

 ――トランプ政権下でスノーデン氏はどうなるでしょう。

 「トランプ氏はスノーデン氏を非難しましたが、大統領に就任後、米国の情報機関がいかに堕落したものかを知れば、違った感情を持つようになるかもしれません。ニクソン元大統領は訪中し、レーガン元大統領はゴルバチョフ旧ソ連書記長と会談しました。トランプ氏も変わり得るでしょう。彼が情報機関の本質を知るにつれ、内部告発者寄りになっていく可能性があります。ウィキリークスに情報を提供したマニング上等兵減刑となったし、スノーデン氏にもいずれ寛大な措置がなされることを願っています」

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 ――映画「スノーデン」の制作にあたっては、米国からは出資が一切得られなかったそうですね。

 「米国のどの映画スタジオにも断られ、大変でした。彼らの多くは政府と関係があり、政府の何かを踏んでしまうのを恐れて自己規制したのだと思います。制作にはとても困難を伴い、なんとか配給会社は見つかりましたが、小さな会社です」

 ――かつて、監督は映画「JFK」などで、米大手スタジオ「ワーナー・ブラザース」とよく連携していました。

 「今回、ワーナーにも断られました。米国がテロとの戦いを宣告した01年以降、米国に批判的な映画をつくるのが難しくなり、そうした映画がどんどん減っています。米軍が過剰に支持・称賛されたり、CIAがヒーローに仕立てられたりする映画やテレビシリーズが目立ちます。非常に腹立たしいことです」

 ――今回は結局、どうやって資金を集めたのでしょう。

 「少額資金を集めながら悪戦苦闘。フランスとドイツからの出資が支えとなりました。欧州議会がEU加盟国にスノーデン氏の保護を求める決議をするなど、欧州は彼に耳を傾けています。2度の大戦を経た欧州は国家による監視を好まず、その危険性も理解しています。英国は例外ですけれど」

 ――そうした状況下、今後も映画制作を続けられますか。

 「わかりません。今はプーチン・ロシア大統領についてのドキュメンタリー映画を仕上げているのですが、(商業映画としては)『スノーデン』が私の最後の作品になるかもしれません。米国では映画制作への協力を得にくくなっているためです。仮につくるとしても、たぶん国外で制作することになるでしょう」

 ――トランプ氏は、彼を批判した俳優メリル・ストリープ氏をツイッターで罵倒しました。今後、米映画業界は萎縮していくのでしょうか。

 「そうなるかもしれません。ただ、私はハリウッドの政治とは一線を画しています。時に嫌われることもありますが、これまで同様、私は発言し続けます」(聞き手・藤えりか)

     *

 Oliver Stone 1946年生まれ。従軍したベトナム戦争を題材にした「プラトーン」「7月4日に生まれて」でアカデミー監督賞。

 ◇関連記事を2月5日付のGLOBEに掲載予定です。

 〈+d〉デジタル版に動画
    −−「インタビュー トランプ政権への期待 映画監督、オリバー・ストーンさん」、『朝日新聞』2017年01月24日(火)付。

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覚え書:「書評:単身急増社会の希望 藤森克彦 著」、『東京新聞』2017年04月16日(日)付。

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単身急増社会の希望 藤森克彦 著

2017年4月16日
 
◆貧困、孤独死防ぐ支え合い
[評者]古田隆彦=現代社会研究所長
 日本国内では今、七人に一人が一人暮らしだ。それが二〇三〇年になると、五十代の男性で一・三倍、女性で一・五倍に増え、八十歳以上では男女ともに一・五倍を超える。背景には、年齢構成の変化に比例して単身者が増える「人口要因」と、未婚化や親子別居化などでその数が変わる「非人口要因」の、両面がある、と著者はいう。
 未婚化の進行で、四十〜五十代の単身予備軍も増えている。無業者の比率が高く、大半が親と同居して援助を受けているから、親が死ねば単身となり、たちまち貧困に陥る。
 こうして急増する高齢単身世帯では、貧困率が高く、会話の相手も減少して、孤立死の比率も高まる。
 どうすればいいのか。本書では「住宅手当制度」の導入、「地域包括ケアシステム」の構築、厚生年金の適用拡大、「ジョブ型正社員」という新しい働き方の採用などを、政府、コミュニティー、企業に向けて提案する。
 そのうえで、今後の日本の社会制度を、従来の家族依存型やアメリカ的な市場依存型ではなく、スウェーデン風の政府依存型へと転換し、「ある程度大きな政府」をめざすべきだ、と主張する。政府の無駄を徹底的に排除しつつ、社会保障制度を強化して、適切な所得再分配策で「支え合う社会」を構築すること、これこそが「希望」なのだ、という。精緻な分析と視野の広い提案は、まさに単身化対策の底本ともいうべき一冊だ。
 四十数年前、経済人類学者のK・ポランニーは、家政(個人)を支える歴史的、社会的な制度として、互酬(ごしゅう)(地縁・血縁)、再配分(政府)、交換(市場)の三つをあげ、今後はこれらを巧みに組み合わせた「複合社会」へ進むべきだ、と述べていた。本書を読むと、長寿・単身化時代に生きる私たち一人ひとりにとっても、さまざまな社会制度の構築へいかに関わり、どのように活用していくべきか、個人的な対応力が問われることになろう。
日本経済新聞出版社・2808円)
<ふじもり・かつひこ> 1965年生まれ。みずほ情報総研研究員。
◆もう1冊
 上野千鶴子著『おひとりさまの老後』(文春文庫)。単身者の老後の生活や心構えを社会学者が考察。「おひとりさま」本の嚆矢(こうし)。
    −−「書評:単身急増社会の希望 藤森克彦 著」、『東京新聞』2017年04月16日(日)付。

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覚え書:「【書く人】勝頼「暗愚」を覆す事実『武田氏滅亡』 歴史学者・平山優(ゆう)さん(53)」、『東京新聞』2017年04月16日(日)付。

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【書く人】

勝頼「暗愚」を覆す事実『武田氏滅亡』 歴史学者・平山優(ゆう)さん(53)

2017年4月16日
 
 戦国大名武田氏の滅亡への転換点といえば、一五七五年の長篠の合戦が真っ先に思い浮かぶ。しかし、この七五二ページの大著では冒頭に数十ページが割かれるだけ。大敗を喫した後、生き残りを模索しながらも滅亡に向かった七年弱を丹念に描く。
 両親が武田氏の最期の地となった現在の山梨県甲州市田野の出身で、菩提寺(ぼだいじ)は武田勝頼の墓がある景徳院。東京生まれながら、たびたび墓参りで田野を訪れた。武田氏滅亡をテーマに小学校の自由研究を書いたこともある。「勝頼は私が歴史学者になるきっかけをつくってくれた人物です」
 昨年のNHK大河ドラマ真田丸」では時代考証担当の一人を務めた。ドラマは父信玄から大国を背負わされた悲運の人物として勝頼を描いた。「暗愚な武将という従来のイメージは、あれでだいぶ変わったはずです」。発売四日で重版が決まった好調な売れ行きの背景の一つには、ドラマの影響があると見ている。
 本書が提示する勝頼像も暗愚という印象とは遠い。例えば上杉謙信の没後に上杉景勝景虎家督を争った越後の御館(おたて)の乱。勝頼は賄賂に左右されて景虎から景勝への支援に方針転換し、ともに景虎を支える算段だった相模の北条氏政との関係悪化を招いたとされてきた。景勝は家督争いに勝ったが、勝頼は有力な同盟相手を失う結果になる。
 しかし、方針転換の背景には氏政が北関東の諸大名との戦闘で景虎を十分に支援できない事情があったことが明かされる。「近年の関東戦国史研究の発展は著しくて、小国の動きが具体的に見えてきた。華々しい研究ではないかもしれませんが、有力大名の見方にも影響する。歴史は基礎研究が生命線だと思います」
 圧巻は織田、徳川、北条氏の侵攻を受け、勝頼が自害するまでの一部始終をつづった第九章。武田領内を猛進する織田信忠、深入りを懸念する信長、織田氏の突然の行動に戸惑う氏政−。入り乱れる思惑を、日付ごとに出来事を叙述する工夫で明快に解きほぐした。
 勝頼の命日の三月十一日には、景徳院の墓前に刊行を報告した。「この本は研究書ですので、なるべく批評は加えず、事実を積み重ねることにこだわりました。少なくとも、滅亡の責任を彼一人におしつけられないことは明らかにできたのではないでしょうか」
 角川選書・三〇二四円。 (小佐野慧太)
    −−「【書く人】勝頼「暗愚」を覆す事実『武田氏滅亡』 歴史学者・平山優(ゆう)さん(53)」、『東京新聞』2017年04月16日(日)付。

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覚え書:「【東京エンタメ堂書店】<小林深雪の10代に贈る本>新学期から始まる小説」、『東京新聞』2017年04月24日(月)付。

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【東京エンタメ堂書店】

小林深雪の10代に贈る本>新学期から始まる小説

2017年4月24日


 4月、新学期。新しい環境には、もう慣れましたか? 新しい場所、新しく出会う人たち。期待と不安で胸がいっぱい。でも、それは、みんな同じ。中学、高校、大学、それぞれの4月、新学期から始まる小説3冊を。
◆「電車で読書」恋の始まり

 まずは中学入学式の朝から始まる物語。<1>桜庭一樹『荒野(こうや) 12歳 ぼくの小さな黒猫ちゃん』(文春文庫、四七三円)
 「今日から中学生。ちょっと大人」。荒野は、十二歳。メガネをかけた地味で奥手な女の子。人気恋愛小説家の父親と家政婦さんと三人暮らし。
 冒頭、荒野が閉まる電車のドアに制服を挟まれ、文庫本を読んでいた少年に助けられるシーンが印象的。少年が読んでいた本は、五木寛之『青年は荒野をめざす』。荒野は、そこに自分の名前を発見し、その男の子を意識し、気になる存在になっていく。
 電車の中で、スマホじゃなくて文庫本を持っている十代は、絶対に目立つしスマート。ぜひ真似(まね)してほしい。明日、恋が始まるかもしれませんよ。
 中学の新しいクラスでの友情や初恋、そして、家族のこと。思春期の健気(けなげ)で危なげな、ゆれる感情が鮮やかに描かれる三部作の一作目。
◆「伝説」の年、謎めく転校生

 一月に『蜜蜂と遠雷』で直木賞を受賞した恩田陸さんのデビュー作。<2>恩田陸六番目の小夜子』(新潮文庫、五九四円)
 高校、四月、新学期の朝から物語が始まります。
 その高校には十数年間にわたり、奇妙な言い伝えがあり 三年に一度、「サヨコ」と呼ばれる生徒が、何者かによって選ばれ、その使命を果たさなければならない。そして、今年は、「六番目のサヨコ」が誕生する年。そこに、謎めいた美しい転校生がやってくる。しかも、彼女は十二年前事故で亡くなった「サヨコ」と同姓同名だった。
 読み出した途端に、「サヨコ」の謎にひき込まれて、じわじわと襲ってくる恐怖に背筋を凍らせながら、最後まで一気に読んでしまいます。
 真紅(しんく)のバラ。漆黒の髪。黒い石碑。赤いランプ。黒い野犬。血だらけの河原。学校の火事。この小説では、赤と黒、その二色が効果的に使われ、読み手に鮮烈なイメージを残します。特に学園祭の演劇シーンのあの緊張感を、文章で味わってみてください。
◆青春時代、最大の贅沢とは

 大学一年の四月から始まる<3>伊坂幸太郎『砂漠』(新潮文庫、八五三円)。
 悪ふざけが通用するのは「砂漠」に出るまで。大学は、社会という「砂漠」に囲まれた「オアシス」である。
 主要登場人物は仙台の国立大学に通う男女五人。始まりはクラスの新歓コンパ。クールな北村くん、おっとりしているのに超能力者?の南さん、孤高の美女、東堂さん。軽い鳥井くん。そして、パンクロックが好きな西嶋くん。
 「賢いふりしてバカ見ることを恐れて何もしないバカばっかり」「今、目の前で泣いている人を救えない人間がね、明日、世界を救えるわけがないんですよ」と、名言連発、空気を読まない西嶋くんが、かっこ悪いけど、かっこいい。
 社会を変えたいと熱く思いながら、明日、殺処分になる犬一匹助けられないと深く悩む。自意識過剰で不機嫌で苛立(いらだ)つ青春時代は、身に覚えがありすぎて、胸がうずきます。
 一人でいる方が楽だし、人とつき合うのは面倒。だけど、社会という「砂漠」に出る前にバカをやって仲間をつくれ! そしたら、その気になれば「砂漠」に雪を降らすことだってできる。だって、「人間にとって最大の贅沢(ぜいたく)とは、人間関係という贅沢」なんだから。
 十代のうちに読んでほしい三冊です。もちろん、元十代もぜひ!
 *毎月第四月曜掲載。
<こばやし・みゆき> 児童文学作家。『作家になりたい!』(講談社青い鳥文庫)発売中。
    −−「【東京エンタメ堂書店】<小林深雪の10代に贈る本>新学期から始まる小説」、『東京新聞』2017年04月24日(月)付。

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覚え書:「論壇時評 社会の分断 他者思う大人はどこに 歴史社会学者・小熊英二」、『朝日新聞』2017年01月26日(木)付。

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論壇時評 社会の分断 他者思う大人はどこに 歴史社会学者・小熊英二
2017年1月26日

小熊英二さん=迫和義撮影
 
 ■(論壇時評)社会の分断 他者思う大人(たいじん)はどこに 歴史社会学者・小熊英二

 「私には仕事が必要だ。私の子供は大学に行く必要がある。トランプ氏はそれを約束してくれている。おそらく彼は、その人種差別的で性差別的な政策をやり通さないだろう」

 米大統領選で注目されたサンダース上院議員は、有権者の真意をこう推定している〈1〉。実際に社会学者のマイク・デイヴィスによれば、トランプ投票者の2割は、トランプ個人に対しては否定的な態度をとっていたという〈2〉。

 ここに見られるのは一種の悪循環だ。社会の分断が政治への不満を生み、政治を変革したいという願望が結果的に差別的な権威主義を呼び込み、さらに社会の分断を強化してしまう。ロベルト・ステファン・フォアとヤシャ・モンクは、先進諸国で「民主主義への支持」や政治への関心が低下し、権威主義への支持が増えていることを指摘している〈3〉。

 日本ではどうだろう。サンダースが言うように、子供を大学に行かせられるかは収入の一つの基準である。後藤道夫の推計では、大都市部で子供2人を大学に行かせた場合、年収600万円では、税金・保険料・教育費を除いた生活費が生活保護基準を下回ってしまう〈4〉。

 では、所得が600万円以下の人は何割なのか。国税庁民間給与実態統計調査(2016年〈5〉によれば、15年の給与所得者4794万人のうち、600万円を上回るのは18%。男性の給与所得者では28%である。この数字だけから単純には言えないが、上位2割程度の所得がないと、子供2人を大学に行かせるのは苦しいといえそうだ。

     *

 では日本でも、上位1%に富が集中しているのか。森口千晶とエマニュエル・サエズは異なる見解を示している。それによると、1990年代以降の日本で全体に占める所得のシェアが伸びているのは、上位1%ではなく上位10%の下半分、つまり上位5%から10%の部分だ。そして2012年の所得上位5%から10%とは、年収約750万円から580万円の人々だという〈6〉。なお同年の上位1%は年収1270万円だった。

 ただし森口らがいう上位10%は、無所得者を含む20歳以上の成人全ての中の10%である。これは前述したように、給与所得者では上位2割に相当する。

 大ざっぱに言えば、以下のように考えられる。日本社会は、全体に低所得化している。そのなかで、大企業正社員クラスにあたる年収600万円以上の層が、上位10%として相対的に浮上している。しかしこの層も、長時間労働にあえぎ、教育費がかさめば生活は苦しい。結果として、社会の全ての領域で、大部分の人々が余裕を失っているのだ。

 そして余裕がなくなればなくなるほど、事態を直視するのが難しくなる。自分の貧困も、他人の貧困も、「努力不足」「自己責任」と考えがちになる。それは、社会の分断を強化し、自分の余裕を失わせる。これでは悪循環だ。

 こうした状況をどう打破していくか。湯浅誠と阿部彩の対談〈7〉は、こうした悪循環から抜けだす可能性の一端を示してくれている。

 この対談は「子どもの貧困」特集の一環として行われたものだが、他の多くの問題にも触れている。なぜなら「子どもの貧困」は、「親の貧困」や「地域の貧困」が、別の形で表面化したものに他ならないからだ。さらにそこには、教育機関や行政機関などの、予算や知識や意欲の「貧困」も関わってくる。

 そうである以上、個々の子供に対する食事支援や教育支援だけで、問題を解決できるわけではない。にもかかわらず湯浅や阿部がこの問題を重視する理由は、「子どもの貧困」は「本人の努力が足りないからだ」という自己責任論から免れているからだという。そのため、多くの人に理解を得やすいだけでなく、活動を促す契機になるというのだ。

     *

 「大人(たいじん)」とは、社会の責任を負い、他者を助けるだけの余裕がある人のことだ。それに対し「小人(しょうじん)」は、自分のことで精一杯(せいいっぱい)の人を指す。そして「大人」であるか否かは、資産や才覚の有無だけでは決まらない。巨万の富があるのに他者も社会も顧みない「小人」はいる。だが「子どもの貧困」の前では、誰もが「大人」の役割を引き受けざるを得ない。そして、他者と社会を直視する余裕を、ひねりだす努力をするようになる。

 児童に食事を無償提供する「こども食堂」について阿部はこう述べる。講演で貧困問題の統計や国際比較を語ると「会場に絶望感が漂う」。だが「こども食堂」の事例を話すと「これなら私でもできるかもしれない」と人が動きだす。そのとき人は「大人」になるのだ。

 もちろん湯浅も阿部も、現実の厳しさは承知している。とくに彼らが懸念するのは、政治の危機につながる社会の分断が日本でも生じつつあることだ。だがだからこそ彼らは、地域活動を通じて「状況も意見も違う人たちが同じ問題について考えられるような土台」を築く意義を強調する。そうした土台がないまま、政治のリーダーシップを期待しても、権威主義しか生み出さないからだ。

 サンダースは政治の役割について、こう述べている〈1〉。「私のリーダーシップがなんでももたらすかのような話がありますよ。しかしね、それは人々を結びつけるという意味なんです」。人が他者を思い、結びつくこと。そこからしか、政治と民主主義の再生も始まらない。

     *

〈1〉エマ・ブロックスバーニー・サンダーススパイク・リーに会う」(現代思想1月号)

〈2〉マイク・デイヴィス「革命はこれからだ」(同)

〈3〉ロベルト・ステファン・フォア、ヤシャ・モンク「民主主義の脱定着へ向けた危険」(世界2月号)

〈4〉後藤道夫「『下流化』の諸相と社会保障制度のスキマ」(POSSE・30号、16年)

〈5〉国税庁民間給与実態統計調査」(2015年分、http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2015/pdf/001.pdf別ウインドウで開きます)

〈6〉森口千晶・大竹文雄 対談「なぜ日本で格差をめぐる議論が盛り上がるのか」(中央公論15年4月号)

〈7〉湯浅誠・阿部彩 対談「子どもの貧困問題のゆくえ」(世界2月号)

     ◇

 おぐま・えいじ 1962年生まれ。慶応大学教授。近刊に高賛侑・高秀美との共編著『在日二世の記憶』(集英社新書)。
    −−「論壇時評 社会の分断 他者思う大人はどこに 歴史社会学者・小熊英二」、『朝日新聞』2017年01月26日(木)付。

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