覚え書:人間の条件というのは、単に人間に生命が与えられる場合の条件を意味するだけでない。

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 人間の条件というのは、単に人間に生命が与えられる場合の条件を意味するだけでない。というのは、人間が条件づけられた存在であるという場合、それは、人間が接触するすべてのものがただちに人間存在の条件に変わるという意味だからである。<活動的生活>が営まれる世界は、人間の活動力によって生み出される物から成り立っている。しかし、その存在をもっぱら人間に負っている物は、それにもかかわらず、それを作り出した人間の絶えざる条件となっているのである。結局、地上の人間に生命が与えられる場合の条件に加え、また一部分それらの条件から、人間は自分自身の手になる条件を絶えず作り出していることになる。この条件は、それが人間起源のものであり、変化しやすいものであるにもかかわらず、自然物と同じような条件づけの力をもっている。人間の生命に触れたり、人間の生命と持続した関係に入るものはすべて、ただちに人間存在の条件という性格をおびる。これこそ、なにをしようと人間がいつも条件づけられた存在であるという理由である。人間世界に自然に入りこんでくるもの、あるいは人間の努力によって引き入れられるものは、すべて、人間の条件の一部となるのである。人間存在に対する世界のリアリティの影響は、条件づける力として感じられ、受け止められる。世界の客観性−−その客観的性格あるいは物的性格−−と人間の条件は相互に補完し合っている。つまり、人間存在は条件づけられた存在であるがゆえに、それは物なしでは不可能であり、他方、もし物が人間存在を条件づけるものでないとしたら、物は関係のないがらくたの山、非世界(ノン・ワールド)であろう。
    −−ハンナ・アレント(志水速雄訳)『人間の条件』ちくま学芸文庫、1994年、21−22頁。

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人間の条件 (ちくま学芸文庫)
ハンナ アレント
筑摩書房
売り上げランキング: 3,198

覚え書:「売れてる本 SLEEP―最高の脳と身体をつくる睡眠の技術 [著]ショーン・スティーブンソン」、『朝日新聞』2017年09月24日(日)付。

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売れてる本 SLEEP―最高の脳と身体をつくる睡眠の技術 [著]ショーン・スティーブンソン

売れてる本
SLEEP―最高の脳と身体をつくる睡眠の技術 [著]ショーン・スティーブンソン
2017年09月24日
■様々な論文もとに実用的提案

 売れる実用書の条件は何か。
 一つはその本の扱う問題が普遍的に関心が高く方法が容易なことだ。ダイエットや部屋片付けは骨董(こっとう)鑑定より売れる。手を回すだけで痩せる、ともかく行動しろ、何回も単純作業を繰り返せという本は実際売れるが、千日間荒行をしろという本は誰も買わない。
 あとは、提案内容に説得力がある、共感を呼ぶという要素である。よくあるパターンは、どん底まで落ちた著者が人生を逆転させたという感動的なストーリーを軸にする。ビリから名門大学に合格とか、失職したシングルマザーや学校からドロップアウトした人が高収入にといった物語。実は極めて個人的な事情による成功も多く、試験に次々合格したのは良いがその後のキャリアが混迷など、没落ケースもあり説得力を失う。
 そこで次に出てきたのが、スター教授を著者にするものだ。いわゆる「〇〇大学式」、これなら理論的背景、再現性もある。しかし、スター教授は少なく、本を沢山出してもくれない。そこで、実用書のサードウェイブとして、一人の教授の主張ではなく、様々な学術論文をライターらがまとめるタイプの実用書が次の流れとして出てくる。これなら学術的な背景による再現性、説得力があり、本も作りやすい。
 そして、こうした売れる条件をすべて満たした本が、『SLEEP』である。この本は、眠りというすべての人間の基本欲求をテーマにしており、「眠る」という誰でもしていることに関連する実行しやすいことをすると人生のあらゆることが改善されるということを、様々な学術論文(怪しいのもあるが)を引用しながら展開している本である。どうだろうか、見事に売れる実用書の条件を満たしている。しかもダイエットから電子機器の使い方、サプリメント、マインドフルネスまで最近の実用書テーマのてんこ盛りである。なんとしても売りたい著者の熱意が暑苦しいくらいだが、その努力は報われそうだ。
 瀧本哲史(京都大学客員准教授)
    ◇
 花塚恵訳、ダイヤモンド社・1620円=9刷3万5千部 17年2月刊行。著者は米国の健康部門のポッドキャスト「The Model Health Show」のクリエーター。
    −−「売れてる本 SLEEP―最高の脳と身体をつくる睡眠の技術 [著]ショーン・スティーブンソン」、『朝日新聞』2017年09月24日(日)付。

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SLEEP 最高の脳と身体をつくる睡眠の技術
ショーン・スティーブンソン
ダイヤモンド社
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覚え書:「著者に会いたい けあり記者―過労でウツ、両親のダブル介護、パーキンソン病に罹った私 三浦耕喜さん」、『朝日新聞』2017年08月27日(日)付。

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著者に会いたい わけあり記者―過労でウツ、両親のダブル介護、パーキンソン病に罹った私 三浦耕喜さん

著者に会いたい
わけあり記者―過労でウツ、両親のダブル介護、パーキンソン病に罹った私 三浦耕喜さん
2017年08月27日

三浦耕喜さん

■読者を助け、戦う新聞をつくりたい

 「俺ってストレス耐性が強い」と自任し、周囲からは「使い減りしない」とも言われていた。期待に応える猛烈な働きぶり。中日・東京新聞でベルリン特派員や政治部官邸キャップを歴任した記者。そのキャリアが、2012年、突然途切れた。
 年明けから動悸(どうき)が収まらず、不眠が続いた。抑うつ状態と診断され、5カ月休職した。復帰後に政治部を去り、生活部に異動した。
 本作では、過剰な働きぶりを強いて部下を追い込む「クラッシャー上司」の存在や長時間労働など、原因をさらけ出した。現実の人間関係にも絡むテーマだが、地雷原に踏み込む覚悟で書いた。病を得て「誰かがどこかで指摘しなくてはならない病巣。組織に波風立てないことよりも大切なことがあると信じるようになった」からだ。そして、今は誰も責めない。「政治部時代、私も部下をどなり上げた。振り返れば自分にもクラッシャー上司の面があったから」
 復職後、入れ替わるように両親の介護がのしかかった。足の弱った父が特養に入居。認知症が進行した母は病院に移った。14年に実家近くでの勤務を希望し実現。週末名古屋市の自宅から故郷岐阜県の施設まで1時間かけて介護に赴く。その様子を、中日・東京新聞で連載し始めた。20回を超えた。「親のなれそめなどファミリーヒストリーを探り驚くことも多い。まさに介護民俗学。人への興味で介護にも前向きになれる」
 昨年、パーキンソン病と診断された。三つめの「わけあり」だ。
 今は介護に支障はないが、メモを取る手は震え、パソコンは右手の指一本。自立して自由に取材活動ができるのはあと10年と見積もる。結婚する前に、妻からもらったモンブランのボールペンを手に「最後の血の一滴まで、三浦は記者でありたい」という。
 「わけあり人材」として、つらい人たちや、けなげに生きているのに報われない人たちに寄り添いたい。最近世話になった人へメールを出した。「読者を助ける知恵がある。暮らしの中で戦う勇気がある。そんな新聞を作りたい」とつづった。
 (文・写真 木村尚貴)
    ◇
  高文研・1620円
    −−「著者に会いたい けあり記者―過労でウツ、両親のダブル介護、パーキンソン病に罹った私 三浦耕喜さん」、『朝日新聞』2017年08月27日(日)付。

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わけあり記者
わけあり記者
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三浦 耕喜
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覚え書:「著者に会いたい 重版未定2―売れる本も編集したいと思っていますの巻 川崎昌平さん」、『朝日新聞』2017年09月03日(日)付。

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著者に会いたい 重版未定2―売れる本も編集したいと思っていますの巻 川崎昌平さん

著者に会いたい
重版未定2―売れる本も編集したいと思っていますの巻 川崎昌平さん
2017年09月03日

川崎昌平さん=飯塚悟撮影

■守るため、地に足つけて変わるべき

 「本なんて売れるわけ無いだろ」。無気力につぶやく主人公。ぱっとしない弱小出版社の編集者だ。返品された本を断裁工場へ運んだり、入稿間際に逃げた著者の代理で執筆する羽目になったり。刊行計画に間に合わせることを一番の目標に、登場人物が右往左往するこのお仕事マンガには、夢も希望もあんまりない。だが、その心は「出版業界を守りたいからこそ」という。
 自身も「小出版社」の現役編集者。勤務の傍ら同人誌を制作してきた。本書の前巻にあたる『重版未定』も元は全28ページ、初版50部の自主制作本。ウェブ媒体で連載を始めると「リアルすぎる」と話題になり、単行本になることに。刊行からひと月で、見事、重版出来(しゅったい)となった。連載は現在も継続中だ。
 日本の出版社の多くは小規模で、発行部数も少ない。それでも「『何だこれ』という面白い本を作って、時代の文化を残してきた。書店や取次はそれを支えている。業界全体を守りたいからこそ、変わるべきだと訴えたくて、地に足のついた内容にしたんです」。
 大学院を修了し、研究員やニートを経た2007年、日雇い労働をしながらネットカフェで生活した体験を書いた『ネットカフェ難民』を出して、書名は流行語に。翌年には、非正規雇用格差社会に疑問を持ち、就職活動の実践記を本につづった。当時から「特別な存在としてでなく、多くの人がうなずいてくれる、汎用(はんよう)性のある訴え方」がしたかった。
 最新作の同人誌『労働者のための同人誌入門』(電子版は入手可)は、忙しく働く日々に気詰まりする30歳の女性会社員が「私が私を救うのだ」と創作活動を始める物語。裏表紙には「働きながら表現しよう」の文字。「生活のため」のジョブと、「やりたいこと」であるワークを分けて考えれば、閉塞(へいそく)感を抱える人もきっと変われる。
 「地道に働く普通の人をこそ守りたいんです。考え方次第で見える世界が変えられると提案できたら」。だから「名前一本で生きてやるわいという気概はある」が、会社員をやめるつもりは無い。
 (文・真田香菜子 写真・飯塚悟)
    ◇
 河出書房新社・1080円
    −−「著者に会いたい 重版未定2―売れる本も編集したいと思っていますの巻 川崎昌平さん」、『朝日新聞』2017年09月03日(日)付。

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重版未定 2
重版未定 2
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河出書房新社
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覚え書:「松尾貴史のちょっと違和感 安倍首相の国会答弁 あまりに下品で不誠実で幼稚」、『毎日新聞』2017年05月21日(日)付日曜版日曜くらぶ。

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松尾貴史のちょっと違和感

安倍首相の国会答弁 あまりに下品で不誠実で幼稚

2017年5月21日

そうやって指をささないほうがいいですよ!=松尾貴史さん作

 民進党福島伸享衆院議員が、まさに安倍昭恵氏と森友学園のズブズブの関係について質(ただ)したのに対し、安倍晋三総理大臣が「ズブズブの関係とか、そういう品の悪い言葉を使うのはやめたほうがいい。それが民進党の支持率に出ている」とまたぞろ、まるで答えにならない答弁をした。自身が夫婦ぐるみで不適切な関係であったことを何とか隠し通したいという焦りから出た抗弁なのだろうけれども、これはあまりにも下品ではないか。

 第一、中身に正面から答えず、言葉尻を捕まえてなじることで時間を消費して答弁したふりをしているだけで、あまりにも不誠実だ。「ズブズブ」が「品の悪い言葉」だということは初めて聞いたが、公の場で相手を「品が悪い」と表明することのほうが、よほど下品だと思う。その語句に、異常な後ろめたさや恐怖を感じるからこその過剰反応であることは想像に難くない。

 さて、その安倍総理は昨年の北海道5区の補欠選挙について、「民進党共産党がこんなにズブズブの関係になった選挙は初めて」と語っていたが、自分は使っている言葉も、野党の議員が使うのは品が悪いという、いつも通りの矛盾したその場凌(しの)ぎだ。

 この、自分だけは特別の存在だという尊大で不遜な振る舞いは、そもそも品の悪い総理だからもう何も期待はしていないけれども、「ズブズブの関係である」ことと「民進党の支持率」とは何の関係もない。聞かれたことに答えずに時間と税金を無駄遣いする総理大臣としか見えない。

 そもそも(「基本的に」という意味があることを閣議決定)、聞かれたくない質問をされたら、相手の党の支持率が低いことをあげつらうのが、為政者というよりも大の大人がすることだろうか。内容について反論できないから、相手が嫌がることを言うというのであれば、子供の喧嘩(けんか)の古典的な台詞(せりふ)の「お前の母ちゃんデベソ」とレベルが変わらない。

 タレントがテレビ番組で司会者から聞かれたくない質問を受けて、「そんな品の悪い質問をしないでください。だからこの番組は視聴率が低いんですよ」などと言おうものなら、二度とその局からお呼びがかからないだろうし、商店街の隣同士でちょっとしたトラブルがあったときに、「そんなことを言っているからあんたの店は売り上げが伸びないんだよ」などと言ってしまったら、末代まで犬猿の仲になるだろうし、国同士の折衝で要求をのみたくないときに「そんな品の悪い条件を提示しないでいただきたい。それがおたくの国のGDP(国内総生産)の低さに反映されているのです」などと言うならば、外交の体をなさない。

 国会議員や閣僚は、国民の代表として参加しているお互いを尊重し、敬意を払うべきであって、総理大臣は正面から横綱相撲を取らなければいけないと思うのだけれども、我が国の代表者は保身のために国会の権威や品位など汚しても後は野となれ山となれという風情だ。

 「人を指さすのはやめたほうがいいですよ」とも言っていたけれども、ご自身は鮮やかな手つきで野党議員を指さしている。答弁するふりをしつつ、さも野次のせいでまともな答弁ができないような顔つきで、「野次はやめていただきたい」と言う光景も何度か見たが、総理大臣自身が野次、不規則発言で何度もみっともない様を見せてきたではないか。なぜ自分だけが特別に許されるのか、ぜひ説明していただきたいものだ。

 そして、もう一つの「特別な」加計学園との「ズブズブ」疑惑について、早く説明を詳(つまび)らかにしていただきたい。(放送タレント、イラストも)
    −−「松尾貴史のちょっと違和感 安倍首相の国会答弁 あまりに下品で不誠実で幼稚」、『毎日新聞』2017年05月21日(日)付日曜版日曜くらぶ。

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松尾貴史のちょっと違和感:安倍首相の国会答弁 あまりに下品で不誠実で幼稚 - 毎日新聞






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