覚え書:人間の条件というのは、単に人間に生命が与えられる場合の条件を意味するだけでない。

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 人間の条件というのは、単に人間に生命が与えられる場合の条件を意味するだけでない。というのは、人間が条件づけられた存在であるという場合、それは、人間が接触するすべてのものがただちに人間存在の条件に変わるという意味だからである。<活動的生活>が営まれる世界は、人間の活動力によって生み出される物から成り立っている。しかし、その存在をもっぱら人間に負っている物は、それにもかかわらず、それを作り出した人間の絶えざる条件となっているのである。結局、地上の人間に生命が与えられる場合の条件に加え、また一部分それらの条件から、人間は自分自身の手になる条件を絶えず作り出していることになる。この条件は、それが人間起源のものであり、変化しやすいものであるにもかかわらず、自然物と同じような条件づけの力をもっている。人間の生命に触れたり、人間の生命と持続した関係に入るものはすべて、ただちに人間存在の条件という性格をおびる。これこそ、なにをしようと人間がいつも条件づけられた存在であるという理由である。人間世界に自然に入りこんでくるもの、あるいは人間の努力によって引き入れられるものは、すべて、人間の条件の一部となるのである。人間存在に対する世界のリアリティの影響は、条件づける力として感じられ、受け止められる。世界の客観性−−その客観的性格あるいは物的性格−−と人間の条件は相互に補完し合っている。つまり、人間存在は条件づけられた存在であるがゆえに、それは物なしでは不可能であり、他方、もし物が人間存在を条件づけるものでないとしたら、物は関係のないがらくたの山、非世界(ノン・ワールド)であろう。
    −−ハンナ・アレント(志水速雄訳)『人間の条件』ちくま学芸文庫、1994年、21−22頁。

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