覚え書:「折々のことば:875 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年09月16日(土)付。


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折々のことば:875 鷲田清一
2017年9月16日

 不思議なことに、この社会では、ひとを尊重するということと、ひとと距離を置くということが、一緒になっています。

 (岸政彦)

     ◇

 「ひとを理解することも、自分が理解されることもあきらめる、ということが、お互いを尊重することであるかのように」。そう訝(いぶか)しむ社会学者は、路上にある無数の小石の一つを拾うことでそれがどの石とも違うこの石となり、やがてその事実も儚く消えゆくことに心を震わせつつ、無名の人を訪ね歩く。『断片的なものの社会学』から。
    −−「折々のことば:875 鷲田清一」、『朝日新聞』2017年09月16日(土)付。

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折々のことば:875 鷲田清一:朝日新聞デジタル



断片的なものの社会学
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覚え書:「ビジネス 小さな企業が生き残る [著]金谷勉」、『朝日新聞』2018年01月21日(日)付。


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ビジネス 小さな企業が生き残る [著]金谷勉

ビジネス
小さな企業が生き残る [著]金谷勉
2018年01月21日
■販路までデザインし、町工場を再生

 日本の企業は実に9割が中小企業。ものづくり大企業が次々と不祥事にまみれる中、「身軽だし小回りも利く」小さな企業こそ出番であるはずだが、現状は大企業の組織疲労以上に厳しい。
 背景には、圧倒的な技術を持つ一方で、時代感度やビジネス感覚に遅れている、職人気質のマイナス面がある。
 デザイン会社の社長として、そのギャップをつなぎ、経営不振の町工場や工房を立て直してきたのが著者である。眼鏡の加工法を活用して作った耳かき。手編みセーター模様の器。繊細なリボンのしおり……登場する成功事例は、地域の特性を引き出しながら、それぞれに、あっと驚く意外性が宿る。
 今の世のデザインとは、商品に意匠を施すことだけでなく、販路まで全体の道筋を設計すること。「商品はつくって終わりではなく、きちんと売って、買い手に届いて初めて商品となる」ということで、小さな会社が生き残るためのキーワードは、「考動(考えて動く)」。
 「小さな会社が毎年少しずつでも業績を伸ばしていければ、まだまだ日本は良くなる」と著者はいう。熱意を作り手と分かち合いながら、町工場の再生が進む。
    −−「ビジネス 小さな企業が生き残る [著]金谷勉」、『朝日新聞』2018年01月21日(日)付。

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覚え書:「ビジネス 江副浩正 [著]馬場マコト、土屋洋」、『朝日新聞』2018年02月04日(日)付。

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ビジネス 江副浩正 [著]馬場マコト、土屋洋

ビジネス
江副浩正 [著]馬場マコト、土屋洋
2018年02月04日
リクルート、事件より人材輩出に注目

 本書はリクルート創業者で、戦後を代表する実業家の一人でもある江副浩正(えぞえひろまさ)の評伝。著者はいずれも同社出身。
 1960年の起業、就職案内など各種情報誌の創刊、リゾート事業や情報通信業への参入など、経営者江副の足跡を辿(たど)る。その過程で利幅の大きい不動産事業に傾斜し、この分野を手掛ける「環境開発」(のちのリクルートコスモス)を創業。その未公開株を政治家ら有力者に譲渡したことが発覚し、いわゆるリクルート事件が持ち上がる。
 前半では、江副が仲間と協力しながらアイデアを事業化し、会社を大きくしていく様子が生き生きとした会話を交えて描かれている。後半では、成功を重ねるうちに謙虚さを失い、投機性の高い株取引に夢中になり、たびたび妻に暴力をふるうなど、彼の性格的な問題も指摘している。
 事件を経て江副は財界の表舞台から姿を消したが、リクルートはその後、復活を遂げ、有能な人材を次々と輩出した。その背景には、社員の性別や年齢ではなく、あくまで実力・適性を重視した企業文化などがあるとし、多くの人々を巻き込んだ事件よりも、むしろこれらの功績をもって江副を評価すべきだというのが、本書の最大の主張である。
 小林雅一(ジャーナリスト)
    −−「ビジネス 江副浩正 [著]馬場マコト、土屋洋」、『朝日新聞』2018年02月04日(日)付。

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覚え書:「 ビジネス ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由 [著]酒井穣」、『朝日新聞』2018年02月11日(日)付。

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ビジネス ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由 [著]酒井穣

ビジネス
ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由 [著]酒井穣
2018年02月11日
■負担を分散し、仕事との両立を

 超高齢社会・日本。親の介護は誰にとっても他人事(ひとごと)ではない。介護離職の爆発的な増加も予測されるなか、本書は徹底して介護離職のリスクを説き、その回避策を示す。
 介護離職の決断は介護の初期に集中するという。ほとんどの人が情報不足のまま介護生活に突入。パニックに陥って、介護に専念すればラクになる、それが親孝行だ、などと思い込んでしまうのだ。ところが仕事を辞めても肉体的・精神的な負担は減らず、かえって増える。燃え尽きてうつになり、親を虐待してしまうことも。再就職は難しく、運良く仕事が見つかっても年収は半減。介護離婚に至ることもあると釘を刺す。
 そこで本書では介護と仕事を両立させる策として、優秀な介護のプロに頼ることや家族会への参加を提案。「家族と介護サービスのプロによるチーム戦」と捉え、マネジメント能力も駆使しながら負担を分散せよと諭す。
 介護経験者でもある著者。想定していたキャリアを一切あきらめない介護などない、との言葉が重い。先日の小室哲哉さんの引退も(きっかけはさておき)苦悩の末の介護離職ともとれる。まさに時宜を得たテーマで、企業側の取り組みの必要性を痛感した。
 梶山寿子(ジャーナリスト)
    −−「 ビジネス ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由 [著]酒井穣」、『朝日新聞』2018年02月11日(日)付。

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覚え書:「社説 衆院選 大義なき解散 「首相の姿勢」こそ争点だ」、『朝日新聞』2017年09月26日 (火)付。

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社説 衆院選 大義なき解散 「首相の姿勢」こそ争点だ
2017年9月26日

 安倍首相が衆院の解散を表明した。10月10日公示、22日投開票で行われる方向の衆院選の最大の「争点」は何か。

 民主主義の根幹である国会の議論を軽んじ、憲法立憲主義をないがしろにする。そんな首相の政治姿勢にほかならない。

 きのうの記者会見で首相は、少子高齢化北朝鮮情勢への対応について国民に信を問いたいと訴えた。

 少子高齢化をめぐっては、消費税率の10%への引き上げを予定通り2019年10月に行い、借金返済にあてることになっている分から、新たに教育無償化などに回す。その是非を問いたいという。

 だが、この使途変更は政府・与党内でまともに議論されていない。そればかりか、民進党前原誠司代表が以前から似た政策を主張してきた。争点にすると言うより、争点からはずす狙いすらうかがえる。国民に問う前に、まずは国会で十分な議論をすべきテーマだ。

 核・ミサイル開発をやめない北朝鮮にどう向き合うか。首相は会見で「選挙で信任を得て力強い外交を進めていく」と強調したが、衆院議員を不在にする解散より、与野党による国会審議こそ必要ではないのか。

 首相にとって今回の解散の眼目は、むしろ国会での議論の機会を奪うことにある。

 ■国会無視のふるまい

 首相は28日に召集される臨時国会の冒頭、所信表明演説にも代表質問にも応じずに、解散に踏み切る意向だ。

 6月に野党が憲法53条に基づいて要求した臨時国会召集の要求を、3カ月余りも放置した揚げ句、審議自体を葬り去る。憲法無視というほかない。

 いま国会で腰を落ち着けて論ずべき課題は多い。首相や妻昭恵氏の関与の有無が問われる森友・加計学園をめぐる疑惑もそのひとつだ。首相は会見で「丁寧に説明する努力を重ねてきた。今後ともその考えに変わりはない」と語ったが、解散によって国会での真相究明は再び先送りされる。

 国会を軽視し、憲法をあなどる政治姿勢は、安倍政権の体質と言える。

 その象徴は、一昨年に成立させた安全保障関連法だ。

 憲法のもとで集団的自衛権の行使は許されない。歴代の自民党内閣が堅持してきた憲法解釈を閣議決定で覆し、十分な議論を求める民意を無視して採決を強行した。

 今年前半の国会でも数の力を振り回す政治が繰り返された。

 森友問題では昭恵氏の国会招致を拒み続ける一方で、加計問題では「総理のご意向」文書の真実性を証言した前文部科学次官に対して、露骨な人格攻撃もためらわない。

 ■議論からの逃走

 極め付きは、「共謀罪」法案の委員会審議を打ち切る「中間報告」を繰り出しての採決強行である。都合の悪い議論から逃げる政権の姿勢は、今回の解散にも重なる。

 北朝鮮の脅威などで地域情勢が緊迫化すれば、政権与党への支持が広がりやすい。選挙準備が整っていない野党の隙もつける。7月の東京都議選の大敗後、与党内から異論が公然と出始めた首相主導の憲法改正論議の局面も、立て直せるかもしれない。タイミングを逃し、内閣支持率が再び低下に転じ、「選挙の顔」の役割を果たせなくなれば、来秋の自民党総裁選での3選がおぼつかなくなる……。そんな政略が透けて見える。

 森友・加計問題とあわせ、首相にとって不都合な状況をリセットする意図は明らかだ。

 もはや党利党略を通り越し、首相の個利個略による解散といっても過言ではない。

 森友・加計問題については、自民党の二階幹事長から信じられない発言が飛び出した。「我々はそんな小さな、小さなというか、そういうものを、問題を隠したりなどは考えていない」

 だがふたつの問題が問うているのは、行政手続きが公平・公正に行われているのかという、法治国家の根幹だ。真相究明を求める国民の声は、安倍政権に届いているようには見えない。

 ■数の力におごる政治

 安倍政権は12年末に政権に復帰した際の衆院選を含め、国政選挙で4連勝中だ。

 これまでの選挙では特定秘密法も安保法も「共謀罪」法も、主な争点に掲げることはなかった。なのに選挙で多数の議席を得るや、民意を明確に問うていないこれらの法案を国会に提出し、強行成立させてきた。

 きのうの会見で首相は、持論の憲法9条の改正に触れなかったが、選挙結果次第では実現に動き出すだろう。

 もう一度、言う。

 今回の衆院選の最大の「争点」は何か。少数派の声に耳を傾けず、数におごった5年間の安倍政権の政治を、このまま続けるのかどうか。

 民主主義と立憲主義を軽んじる首相の姿勢が問われている。
    −−「社説 衆院選 大義なき解散 「首相の姿勢」こそ争点だ」、『朝日新聞』2017年09月26日 (火)付。

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(社説)衆院選 大義なき解散 「首相の姿勢」こそ争点だ:朝日新聞デジタル