【覚え書】トルストイ『人生論』:人間の生命は幸福への志向である

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 人間の生命は幸福への志向であり、その志向するものは人間に与えられているのである。死や苦しみという形であらわれる悪が人間に見えるのは、人間が自分の肉体的な動物的生存を自己の生命の法則と思いこむ場合だけである。人間が、人間でありながら、同bつのレベルまで身をおとす時だけ、死と苦しみが見えるのである。死と苦しみは案山子(かかし)のように四方八方から人間をおびえさせ、前にひらかれているただ一つの、理性の法則に従い、愛の中に表現される人間の生命の道にかりたてる。死と苦しみは、人間による生命の法則の侵犯にほかならない。自己の法則に従って生きる人間にとっては、死も存在せず、苦しみも存在しないのである。
 「すべて重荷を負うて苦労している者は、わたしのもとにきなさい。あなたがたを休ませてあげよう」
 「わたしは柔和で心のへりくだった者であるから、わたしのくびきを負うて、わたしに学びなさい。そうすれば、あなたがたの魂に休みが与えられるであろう」
 「わたしのくびきは負いやすく、私の荷は軽いからである」(訳注 「マタイによる福音書」第一一章二八−三〇節)
 人間の生命は幸福への志向である。人間の志向するものは与えられている。死となりえない生命と、悪となりえない幸福がそれである。
    −−トルストイ原卓也訳)『人生論』新潮文庫、平成十年、207−208頁。

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⇒ ココログ版 【覚え書】トルストイ『人生論』:人間の生命は幸福への志向である: Essais d'herméneutique



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