覚え書:「異論反論 普天間問題『沖縄の理解を』と首相が訴えました 構造的差別を認識せよ 寄稿=佐藤優」、『毎日新聞』2011年9月28日(水)付。

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異論反論 普天間問題『沖縄の理解を』と首相が訴えました
構造的差別を認識せよ 寄稿=佐藤優

 23日(日本時間24日)、訪米中の野田佳彦首相が内外記者会見を行った。〈首相は普天間移設を巡り、日米首脳会談でオバマ大統領に「昨年の日米合意にのっとって推進する」と日本側の考えを伝えたことを説明。抑止力維持と沖縄の基地負担軽減に取り組む姿勢を示し、「沖縄に県外移転を望む声があることもよく承知しているが、丁寧に説明しながら(県内移設に)ご理解をいただくということ」と述べた。〉(24日毎日新聞夕刊)
 野田首相は、沖縄が米海兵隊普天間飛行場辺野古沖縄県名護市)への受け入れに理解を示す可能性が皆無であるという現実を直視すべきだ。率直に言おう。政権交代以前ならば、辺野古移設の可能性はあった。しかし、鳩山由紀夫政権が沖縄県外への移設を口にしながら、最終的に辺野古移設に回帰した過程で、普天間問題の位相が変化してしまった。野田首相を含む東京の政治エリート(国会議員、官僚)は普天間問題を安全保障の枠組みで考えている。これに対して、沖縄は普天間問題を東京の政治エリートとによる沖縄への差別問題と捉えている。この認識の差異を正確に理解しない限り、野田首相がいくら誠実に努力しても、空回りするだけだ。
 日本の地上面積の0・6%を占めるにすぎない沖縄に在日米軍基地の74%が所在しているという現状は、明らかに不平等だ。しかし、沖縄はその不平等な現実に耐えてきた。その背景には、以下の琉球語(沖縄方言)の俚諺に象徴される沖縄の精神的伝統がある。
 「チュニクルサッティン ニンダリーシガ、チュクルチェ ニンダラーン(他人に痛めつけられても眠ることはできるが、他人を痛めつけては眠ることができない)」

 民主主義原則の適用 他都道府県と同様に
 当時の鳩山首相沖縄県外への移設を模索すると宣言したとき、沖縄は「ついにわれわれの痛みを理解し、その解消につとめてくれる首相が現れた」と心から喜んだ。しかし、外務官僚、防衛官僚の包囲網によって鳩山首相は身動きが取れなくなり、辺野古案に回帰してしまった。
 この過程で見えたのが差別の論理だ。沖縄県以外の都道府県が海兵隊飛行場を受け入れないのは地元の民意が反映しているからだ。民意に反する政策を強行しないというのが民主主義原則だ。沖縄の民意も海兵隊飛行場の受け入れに反対しているにもかかわらず移設を強要されるのは、沖縄には民主主義原則が適用されないということに他ならない。これは明白な差別だ。しかもこの差別は、人間にたとえるならば生活習慣病のように構造化しているので、東京の政治エリートにはどこに問題があるか見えないのである。野田首相が構造的差別という観点から普天間問題を見つめれば、新たな展望が開かれる。

さとう・まさる 1960年生まれ。作家。元外務省主任分析官。「アルバニア語の勉強を本格的に始めました。直野敦先生の『アルバニア語入門』(大学書林)は、とてもよい教科書です。小民族であるが名誉と尊厳に徹底的にこだわるアルバニア人の国民性が沖縄と重なります」
    −−「異論反論 普天間問題『沖縄の理解を』と首相が訴えました 構造的差別を認識せよ 寄稿=佐藤優」、『毎日新聞』2011年9月28日(水)付。

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この問題は、沖縄だけでなく、さまざまな問題を垂直的に決定してしまう認識枠組みとして存在しているんだよな。

僕自身含めてなんですが東京に暮らすということは、本人に直接の瑕疵がないとしても、その責任・加害として関与しているという自覚は必要なんだとは思う。



⇒ ココログ版 覚え書:「異論反論 普天間問題『沖縄の理解を』と首相が訴えました 構造的差別を認識せよ 寄稿=佐藤優」、『毎日新聞』2011年9月28日(水)付。: Essais d'herméneutique