覚え書:「VIEWPOINT イランで困窮するアフガン難民=ベルナルド・ドイル UNHCR駐イラン代表」、『毎日新聞』2011年12月17日(土)付。





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VIEWPOINT イランで困窮するアフガン難民
ベルナルド・ドイル 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐イラン代表

 イランは、治安悪化が続くアフガニスタンから102万人の難民を受け入れ、パキスタンに次いで世界で2番目の「難民受け入れ大国」だ。イランにいるアフガン難民の大半はキャンプではなく、首都テヘランなど都市部で生活し、イラン人とも共存している。イラン政府は長年、難民に医療や教育など社会サービスを提供し、私たちはその寛大な政策を評価かしている。パキスタンにも同様に大量のアフガン難民を抱えるが、生活水準は格段に低い。
 一方で今、イランから母国に戻るアフガン難民が急増している。今年1年間の帰還者数は、昨年の2倍以上の約2万人と推計される。理由は、イランの経済情勢の悪化だ。イラン政府は財政悪化を受けて昨年12月、電気や水道の料金、パンなどに支出していた大規模な補助金を撤廃し、これにより生活費が大幅に上昇した。政府はイラン人の貧困層には補助金撤廃の影響軽減のため、1人当たり月額約45万リヤル(約3000円)の給付金を払うが、難民まで手が回らず、支給対象外とした。このため難民の困窮が進み、母国に戻る決断をする難民が増えているのだ。
 難民が母国に自発的に帰還するのは歓迎すべきことだ。しかし、今のアフガン情勢を考えると気持ちは複雑だ。治安は十分に改善せず、経済状態も依然悪い。仕事もなく、教育や医療が十分に受けられなければ、帰還しても再びイランへ戻る人が増えるだろう。アフガン難民は今、イランに滞在しTUDUKERUのも、母国に帰るのも困難な状況だ。
 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)ではイラン政府と協力し、困窮するアフガン難民に健康、教育、生活向上の3本柱で支援している。健康面では、今年6月から難民に医療保険料の補助を始めた。教育の充実も不可欠だ。知識や技術は、母国への帰還後も仕事の幅を広げ、将来の国の再生にも貢献できる。アフガン人は実に勤勉かつ賢明で、潜在的な可能性は大きい。
 日本を含む多くの国が現在、アフガン難民の支援にかかわるが、まだ支援額は大幅に不足している。イランは核開発問題などで孤立する傾向にあるが、国際政治と人道問題とは分けて考えるべきだ。難民受け入れ国というイランの積極的な面にも目を向け、国際社会が支える必要がある。【まとめ・鵜塚健】

 アフガニスタン難民 79年の旧ソ連侵攻による治安悪化を機にイランとパキスタンへの大量の難民流入が始まる。96年のイスラム原理主義組織タリバンによる実効支配、01年の米軍侵攻などで情勢悪化のたびに、新たな難民が増加。アフガン情勢は改善せず、帰還は一部にとどまる。イランでは102万人の登録難民に加え、150万人以上の不法難民が生活。イラン国民が避ける建設や清掃などの低賃金労働に就き、イラン社会を支えている面もある。
    −−「VIEWPOINT イランで困窮するアフガン難民=ベルナルド・ドイル UNHCR駐イラン代表」、『毎日新聞』2011年12月17日(土)付。

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