旨いもの・酒巡礼記:東京都・新宿区編「ビア&カフェ BERG」




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 大治郎は、また老人に出会った。
 山谷堀の南に、真土山(まつちやま)の聖天宮(しょうてんぐう)がある。
 この日も、大治郎は田沼屋敷からの帰りで、いつもよりは時刻も早かったものだから、聖天宮へ参拝してから、門前の〔月むら〕という蕎麦屋へ入り、
 「酒をたのむ」
 と、いった。
 大治郎も、大分に変わってきたようだ。
 長い修行を終え、江戸の父の許(もと)へ帰って来たころの秋山大治郎は、一人きりで蕎麦屋へ入って酒をのむことなど、おもってもみなかった。
 いや、蕎麦は食べても、まだ明るいうちに酒を口にするなどとは、それこそ、
 (とんでもない……)
 ことだったといってよい。
 小兵衛とちがって、二合ものめば真っ赤になってしまう大治郎なのだが、ともかくも、こうして酒に親しむという気分を、
 (わるいものではない)
 と、おもいはじめてきたらしい。
 それもこれも、父・小兵衛のすることを見ているからであろう。
 酒がくると、おもいついて蕎麦掻きもたのんだ。
 月むらは、一年ほど前に開店した蕎麦屋だが、場所柄、小ぎれいな店構えで、奧には小座敷もある。
 酒も蕎麦もうまいというので、たちまちに客がつき夕暮れ間近い、この時刻にも入れこみは客で埋まっていた。
 入れこみの真中に通路があって、突き当たりに大川(隅田川)をのぞむ小座敷が二つある。
 黒塗りの小桶の、熱湯の中の蕎麦掻きを箸で千切り、汁につけて口に運びつつ。大治郎はゆっくりと酒を楽しんだ。
 こんなことを秋山小兵衛が見たら、何というだろう。
 「せがれめ、小生意気なまねを……」
 苦笑を洩らすにちがいない。
    −−池波正太郎「逃げる人」、『剣客商売12 十番斬り』新潮文庫、平成六年。

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ほとんど毎日晩酌は欠かさないとおりの生活ですが、そとで呑(や)るのも好きなわけですが、大勢でわいわい呑むのも楽しいものですが、ひとりでサクっとやるのもなかなかの快味なのではないかと思います。

先日、久しぶりに新宿に降りたので、ビアパブとでもいえばいいでしょうか……かならず訪問する「ビア&カフェ BERG」に1年ぶりに逗留。

ちょうど帰宅時間帯とかさなり店内は大盛況でしたので、メニューをあれこれ考えるよりも定番の「ジャーマンセット」をオーダー。

パンが二品とパテ二品。
ザワークラウトとレタス。
それからソーセージとハム。

ビールセットでお願いしてヱビスの「黒」にて乾杯。

パンもハムも自家製で、小麦と肉のうま味が凝縮された「間違いのない」味わいを舌鼓した次第です。

たしかに、ロンドンのパブやコーヒーハウスは、発祥としては、飲んでおわりという場所よりも、そこで投資から娯楽、学芸からスポーツまで論じられた「社交場」だったかと聞いたことがありますが、その日は一人で訪問しましたが、昔はよく仲間と短時間のやりとりに利用してことが多かっただけに、そうした雰囲気も味わいつつ、楽しませていただきました。

「長居」するのではなく、「サクッ」と気分転換や語らい……忙しい現代人にとってはまさに都会のオアシスではなかろうか……などと思うのは私ひとりではあるまい。

あ、忘れていましたが、「ビア&カフェ」というふれこみの通り、珈琲のたぐい、カレーといった軽食もなかなか素晴らしい味わいです。


BERG
東京都新宿区新宿3-38-1 ルミネエストB1
7:00〜23:00
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