覚え書:「異論反論 埼玉で親子の餓死遺体が発見されました 成人した子がいても…… 寄稿=雨宮処凛」、『毎日新聞』2012年3月7日(水)付。



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異論反論 埼玉で親子の餓死遺体が発見されました
成人した子がいても……
寄稿 雨宮処凛

 先月28日、さいたま市長への「申し入れ」に同行した。
 その8日前、さいたまで親子3人の遺体がアパートから発見されたことを巡ってだ。
 60代の夫婦と30代の男性の死因は餓死とみられている。半年前から家賃を滞納し、電気・ガスは止められ、所持金は数円だったという。親子は生活保護の相談に訪れることもなく息絶え、死後2カ月ほどたってから発見された。
 この日、「反貧困ネットワーク埼玉」は市長に要望所を提出し、生活困窮者支援について自分たちのノウハウを提供したいこと、行政と民間が協働し、一過性ではなく常設された協議会などをもうけ、孤独死や生活困窮の問題に継続的に取り組む必要があることなどを訴えた。
 申し入れに同行して感じたことは、市側も今回の事件に関して相当悩んでいるということだ。親子3人はさいたまに住民登録がなく、どこか隠れるように暮らしていたという。電気やガスなどの事業者と連携し、滞納によって止められたなどの事例があれば行政が介入できるようなシステム作りの必要性が強調されているものの、そこには「個人情報」という壁が立ちはだかる。行政側にSOSを発しない困窮者の把握の難しさ。しかし、生活保護は住民登録と関係なく受けとることができる。多重債務や家庭内暴力(DV)などさまざまな事情から、住民登録をできない人は多くいる。そしてそんな人々は、もともと貧困リスクにさらされてもいる。複雑な事情を抱える「住民登録のない人」をどう支援していくか。申し入れでは、多くの課題が浮き彫りとなったのだった。
 また、今回の事件でショックだったのは、死者の中に30代の長男が含まれていたことだ。高齢者だけの世帯であれば民生委員や地域の目が届きやすい。が、「成人した子どもが同居している」となると、エアポケットに落ちるようにしてそこから漏れてしまう。

親の年金で生活する30代以上の「子ども」
 しかし、成人した子どもとの同居は決して安心材料ではない。さいたまでは、2年前の夏に76歳の男性が熱中症で志望している。10年以上前に電気を止められていた男性は、48歳の長男と同居していた。しかし、長男は腰痛などで長年働けず、2カ月で十数万円という男性の年金で生活していたという。
 国勢調査によると、この国の3割近い世帯が「夫婦と子どもからなる世帯」だ。しかし、その「子ども」に年齢制限はなく、低賃金や失業といった理由で親元を出ることができない30代、40代、それ以上も多く含まれる。その中には、今回の事件について「ひとごとではない」と思った人も少なくないはずだ。「あそこは息子さんがいるから大丈夫」という今までの視点を少し変えてみると、きっと想像以上に深刻な事態が広がっている。
あまみや・かりん 作家。1975年生まれ。反貧困ネットワーク副代表なども務める。「東日本大震災から丸1年となる11日に、米シカゴ大で開かれるシンポジウムに出席します。震災後1年間の日本社会の動きについて報告する予定です。
    −−「異論反論 埼玉で親子の餓死遺体が発見されました 成人した子がいても…… 寄稿=雨宮処凛」、『毎日新聞』2012年3月7日(水)付。

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