覚え書:「ひと 大学教授から合気道の道場主に転身した思想家 内田樹さん(61)」、『毎日新聞』2012年3月27日(火)付。


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ひと 大学教授から合気道の道場主に転身した思想家 内田樹さん(61)

 思想家として精力的に評論活動を続ける傍ら、神戸市東灘区に昨年11月、自宅兼合気道の道場「凱風舘」を新築し指導している。75畳もある1階のスペースで、門弟ら約150人が汗を流す。念願の道場を「武道と教育研究の拠点にしたい」と考えている。
 小さいときから体育の成績は悪かった。武道にあこがれ、剣道や空手、少林寺拳法をかじったが長続きしなかった。
 大学卒業後に進路を決めあぐねていた75年、東京・自由が丘の古びた合気道の道場をふとのぞいた。「中に入ってご覧ください」と声を掛けられた。合気道創設者の教えを直接受けた多田宏師範(82)だった。古武士のようなたたずまいに引かれて入門。「何事も許して熱心に教え続ける手ほどき」に心酔した。
 都立大助手時代は「稽古の合間に授業をしていた」ほど。90年に神戸女学院助教授になるや大学に掛け合い、翌春、愛好会を設立して初心者約50人と稽古を重ねた。
 見えてきたことがあった。合気道の極意は相手に勝つことではなく、敵を作らないこと。会得するには一人一人が心身の動きを探求し、それを粘り強く支援するしかない。
 「学校体育にはマッチしなかった、小さい、細い、どんくさい子がめきめきと変わる」
 だから教育現場への競争原理導入には真っ向から異を唱える。「才能がいつ開花するかなんて分からない。それを楽しみにいつまでも待ち続ける」。七段の道場主の信念だ。
東京都出身で東大卒。神戸女学院大教授を昨春退職。専攻は仏現代思想。「日本辺境論」(新潮社)など著書多数。
文と写真・錦織佑一
    −−「ひと 大学教授から合気道の道場主に転身した思想家 内田樹さん(61)」、『毎日新聞』2012年3月27日(火)付。


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