書評:ベルナール=アンリ・レヴィ(石崎晴己、三宅京子、沢田直、黒川学訳)『サルトルの世紀』藤原書店、2005年。
ベルナール=アンリ・レヴィ(石崎晴己、三宅京子、沢田直、黒川学訳)『サルトルの世紀』藤原書店、2005年。
あまた存在する現代思想家のなかでも、「忘れ去られた」感のある巨人がサルトルではないだろうか−−。
第二次世界大戦後、実存主義の華々しい主張で、戦後の思想界に血の巨人として君臨したものの、後に登場する構造主義、ポスト構造主義の哲学によって完膚無きまでに否定されたことから「乗り越えられた」思想家として位置づけられてしまったからかも知れない。
そんなサルトルを現代に甦らせようとするのがベルナール=アンリ・レヴィの手による『サルトルの世紀』である。著者は、サルトルの二つの側面に注目する。戦前〜戦時下抵抗の中で刷り上げられていく反人間主義・反主体思想を構想する「第一のサルトル」。そしてそのふたつもののうらとおもてとなる戦後の暗澹たる「第二のサルトル」。すなわち、あるべき本性を措定し人間改良を模索するその足跡。
サルトルの矛盾とは自分自身の課題であり、その足跡は20世紀の宿題そのものかも知れない。いずれにしても挑戦すべき巨人であり、流行や「乗り越えられた感」で避けるべき思想家ではないだろう。
サルトルの何が「新しく」、何が「問題」であったのか。本書は本格的なサルトル入門書ともなっている。