覚え書:「今週の本棚・新刊:『日本の聖地文化 寒川神社と相模国の古社』=鎌田東二・編」、『毎日新聞』2012年06月03日(日)付。


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今週の本棚・新刊:『日本の聖地文化 寒川神社相模国の古社』=鎌田東二・編
 (創元社・2520円)

 聖地はなぜそこにあるのか? 神奈川県の寒川(さむかわ)神社(相模国一之宮)を素材に、聖地立地の謎を探究した意欲的な共同研究。歴史・考古・宗教学に地質学などの自然科学、さらには「宇宙人文学」という新手も動員し、聖地研究に新風を吹き込んだ。

 宇宙人文学の成果としては、人工衛星のセンサーを使って現在の地形の微妙な高低差を読み取り、古代の海岸線を再現した。これらに他の自然科学的考察をあわせ、寒川神社などの古社は、かつての波打ち際や主要河川の水際に位置することを突き止め、聖地と水や水源との濃厚な関係を浮かび上がらせた。

 加えて、景観論が聖地と秀麗な山(富士山、大山(おおやま)など)の眺望との相関を解明し、考古学も縄文遺跡と景観の密接な符合を跡づける。

 こうして、縄文時代以来の定住の地である寒川神社の本殿背後に現在も痕跡を残す湧水の池をめぐり、「縄文時代からあったとすれば、そこは縄文人にとっても大変ありがたい湧水地で、神聖視された可能性はある」とする魅力的な推論に至る。

 宇宙という広大な時空のある一点に、多角的な分析が収束していく。刺激にあふれた聖地論だ。(和)
    −−「今週の本棚・新刊:『日本の聖地文化 寒川神社相模国の古社』=鎌田東二・編」、『毎日新聞』2012年06月03日(日)付。

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