書評:上田美和『石橋湛山論 言論と行動』吉川弘文館、2012年。


上田美和石橋湛山論 言論と行動』吉川弘文館、2012年。


約20年の研究成果をもとに、分裂しがちだった「二つの石橋像」を架橋しようという意欲作。

石橋湛山といえば、どうしても「小日本主義」というキーワードで語られることが多いし、それは間違っていない。しかし、戦後の政治家への転身、そして首相になった彼の足跡と言説を前にすると、「本質は一貫していた」のか、それとも「放棄された」のか、判断に悩む。そしてこれが評価の対立軸になっている。

ただ、「小日本主義」という石橋思想のひとつの「軸」が「アルキメデスの支点」となり、そこから評価が別れるのが現状であろう。著者は本書で、この「小日本主義という軸」に疑問を呈している。

では、筆者は石橋の核にあるものをどこに見出すのか。それは石橋の「自立主義」である。石橋の中国のナショナリズムに対する理解もこの「自立主義」の文脈から必然的に導き出されるものだが、「自己決定」、「自己支配」、「自己責任」という矜持である。ここから現状に対して、具体的に対応していくのか−−これが石橋思想の多様性の展開とみてもよいだろう。

そしてこの自立主義が根本思想だとする場合、展開におけるそのカギは、「経済合理主義」だと筆者は指摘する。小日本主義にしても、反植民地主義からのそれだけではない。そうすることが日本にとって都合がいいからそう主張したのである。

自立主義と経済合理主義という石橋理解は、戦時下の言説、そして戦後の言説と実践を理解するうえでも、非常に役に立つ。





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石橋湛山論: 言論と行動
上田 美和
吉川弘文館
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