覚え書:「今週の本棚・新刊:『懐徳堂ゆかりの絵画』=奥平俊六・編著」、『毎日新聞』2012年06月10日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『懐徳堂ゆかりの絵画』=奥平俊六・編著
(阪大リーブル・2100円)

 享保9(1724)年に大坂の商人の手で設立された学問所、懐徳堂。江戸の昌平坂学問所のように官学化はかなわなかったが、精神は現在の大阪大学に受け継がれている。本書は阪大に残る資料を基に、絵画の側面から懐徳堂が生んだ文化人の交流や当時の世界観を検証した。阪大大学院教授の編著者は「江戸時代の人々にとって、絵画というメディアは今日私たちが想像する以上に親しいものであった」と記している。

 掲載される絵画資料のなかで目を引くのは、岩崎象外の作と伝えられ、中井履軒が賛を書いた「解師伐袁図(かいしばつえんず)」。猿蟹合戦の一場面だが、擬人化されたお供たちが何ともいい。かなめが目になっているハサミは、開いた刃で何ごとかを蟹に報告している。いかにも、ずるがしこくておしゃべりそう。栗(くり)や石臼ら他の従者も個性的な顔つきだ。

 履軒は四代学主竹山の弟で、交友のある上田秋成をこき下ろしたり、世俗を避けて夢の世界に遊ぶ風変わりな人だったらしい。懐徳堂で学んだ象外は、彼の世界を視覚化できる年上の友人だった。白象の背上の宴を描いた図も面白く、もっとこの二人のことが知りたくなる。(咲)
    −−「今週の本棚・新刊:『懐徳堂ゆかりの絵画』=奥平俊六・編著」、『毎日新聞』2012年06月10日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20120610ddm015070014000c.html



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懐徳堂ゆかりの絵画 (阪大リーブル)

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