覚え書:「今週の本棚・本と人:『「デモ」とは何か』 著者・五野井郁夫さん」、『毎日新聞』2012年06月17日(日)付。

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今週の本棚・本と人:『「デモ」とは何か』 著者・五野井郁夫さん
 (NHKブックス・998円)

 ◇「路上の政治」の可能性を探る−−五野井郁夫(ごのい・いくお)さん
 1979年生まれの気鋭の政治学者。単独では初の著書は、福島第1原発事故の後、日本でも活発になった「デモ」を中心とする路上の政治がテーマだ。「民意を無視して原発の再稼働が決まってしまう。民主主義の危機における研究者としてのアクションがこの本です」
 90年代後半からヨーロッパのデモに参加し、国際政治への影響を研究した。翻って「日本のデモはまだそこまでの影響力を持ち得ていないのでは」という問題意識が出発点になった。
 第1章は昨年秋のニューヨークの光景から始まる。経済格差に反発するデモ「オキュパイ・ウォールストリート」。それに続いて大正デモクラシーから現在に至る日本のデモを取り上げた。
 昨年来の脱原発デモには10代から親子連れ、高齢者まで幅広く参加しているものも多い。しかし60年代末から長い間、多くの人々はデモに無関心か、あるいは抵抗感を抱いてきた。著者が教える学生も「デモは怖い」と言う。負のイメージが形成された経緯を綿密に分析した。
 そのうえで、根強い先入観とは裏腹に、暴力的なイメージのつきまとう「旧来のデモ」を拒んだ人々が新しい社会運動を模索し、すでに実践していたと説く。哲学者の鶴見俊輔さんらの「声なき声の会」(60年)や「ベ平連」(ベトナムに平和を! 市民連合)のフォーク・ゲリラ(69年前後)……。多様な運動を「非暴力」の系譜に束ねて再評価した意義は大きい。
 「性別や年齢、障害の有無にかかわらず誰もが参加できる運動でなければ、政治的な表現として健全ではない。今日のデモが非暴力であるのは必然です」
 強調するのは音楽の力。イラク戦争反対運動の2003年を日本の「サウンドデモ元年」と位置付け、「音楽には公権力に替わる自主的な秩序を作り出す可能性がある」と語る。昨年6月の新宿での祝祭的デモの描写からは、著者の共感が伝わる。
 ネット上で情報共有できる「クラウド化」の効果にも言及した。「私たちは今、不正義に対する感度が高くなっている。デモはもちろん、生活の中の小さな政治の実践が大きな政治に変化を突きつけられると信じています」<文・手塚さや香/写真・木葉健二>
    −−「今週の本棚・本と人:『「デモ」とは何か』 著者・五野井郁夫さん」、『毎日新聞』2012年06月17日(日)付。

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