覚え書:「異論反論 働く母親の立場は厳しいままです=城戸久枝」、『毎日新聞』2013年01月09日(水)付。




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異論反論
働く母親の立場は厳しいままです
寄稿 城戸久枝

共働きしやすい環境整備を

 2歳になる息子と散歩をしていたとき、見知らぬ高齢の女性に声をかけられた。「一人っ子はダメよ。もう一人、産んじゃいなさい。亡くなったら悲惨よ」
 唐突な話に少々驚いたが、彼女が87歳と聞いて納得した。戦争や戦後の混乱期を20歳前後で生き抜いた世代だ。彼女にとって、子供の死は今よりずっと身近だったろう。今は老人ホームで暮らしている彼女も、あるいは子供を亡くした経験があるのかもしれない……。軽やかな足取りで去っていく後ろ姿を見つめながら、私は複雑な気持ちになった。
 私は34歳で第1子を出産した。もうすぐ37歳。40歳を前にして、2人目を望んでいないわけではない。ただ、妊娠・出産となると、体力はもつか、経済力は保てるか、そして仕事はどうなるのかなど、さまざまな不安が付きまとう。
 少子高齢化が進むなか、第1子の出産平均年齢は30を超えている。国立社会保障・人口問題研究所の第14回出生動向基本調査(2010年)によると、結婚年齢が高くなると夫婦の平均出生子供数は低下している。妻の結婚年齢が20〜24歳の風では、平均出生子供数が2・08人、30〜34歳では1・50人だという。
 国はさまざまな少子化対策を打ち出しているが、その効果が数字として表れていないように思う。例えばワークライフバランスといっても、社会がそれを受け入れる体制が整っていなければ実現は難しい。
 出生数は年々減少しているが、必ずしも第2子、第3子を望まない夫婦が多いとは限らない。私の周囲にも経済的な理由で第2子、第3子を断念している夫婦もいる。経済的不安を解消するためにも夫婦共働きは推奨されるはずだが、日本の働く母親の立場は相変わらず低い。子育てをしながら働く日本の女性と男性との給与格差が、先進国で最大だという経済協力開発機構OECD)の報告が、働く母親の置かれた厳しい現状を表している(昨年12月18日付毎日新聞夕刊)。
 1日付で厚生労働省が発表した人口動態統計の年間推計によると、2012年の出生数は103万3000人と、戦後最小となる見込みである。人口の自然増減は21万2000人のマイナスである。高齢化は進み、人口の減少はさらに加速することは目に見えている。新政権には、経済対策とともに、子育てをする女性が働きやすい環境を整える政策を早急に立てることを望む。

「夢も希望もなく、手当で子供を増やすのは難しい」
 正月に帰省した際、中国で生まれ育った父に少子化について訪ねると、こう返ってきた。
 「昔は貧乏であってもある程度の余裕と夢があった。子宝は財産よりいいという考えもあった。夢も希望もないのに手当だけで子供を増やそうとしても難しい」
 新しい年を迎えた。日本はこれからどこに向かうのか。子供たちの明るい未来につながる1年となることを願う。
きど・ひさえ ノンフィクションライター。1976年愛媛県生まれ。帰省の際の子連れでの飛行機は無事、乗り切った。「今年は、これまで重ねてきた取材を形にしていきたい。今年もよろしくお願いします」
    −−「異論反論 働く母親の立場は厳しいままです=城戸久枝」、『毎日新聞』2013年01月09日(水)付。

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http://mainichi.jp/select/news/20130109ddm004070005000c.html


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日経ヘルス:日本は「働く母」に優しくない、日本の男女の給与格差に見る男女不平等 2012年12月18日

経済協力開発機構OECD)が世界の男女間格差について調査した結果をまとめた報告書によると、日本における男女間の給与格差はOECD主要加盟国の中で韓国に次いで最も大きい。日本女性の高学歴化は進んでいるものの、労働市場での男女平等にはつながっていない。

 日本では25歳から34歳の女性が大学を卒業している割合は59%で、男性の52%を上回る。45歳から54歳では男性の学士保持者が32%、女性は23%となっていることから、時代を経た変化が窺える。

 しかし男女間の給与格差は29%とOECD平均の16%より遙かに大きい。40歳以上では40%も開きがあり、若い世代でも約15%の差が見られる。また、日本の上場企業の役員における女性の割合はわずか5%で、OECD加盟国の中で最も低いレベルに入る。

 日本女性が労働市場で困難に直面する要因として、ワークライフバランスの難しさをOECDは挙げている。日本女性の多くは出産後に退職することが多く、その後常勤としての復帰を希望しても実現は非常に厳しい。また、被扶養者の立場として所得税免除の範囲内に収入をとどめようとするなど、税および福利厚生の制度が既婚女性の仕事へのモチベーションを削がせていると、OECDは指摘する。

 職場環境もワークライフバランスの実現を困難にする一因となっており、役員クラスの女性率が低いだけでなく、女性役員の出産率も低下している。

 2011年における日本の労働市場参加率は、男性が84%、女性が63%で、この状態が続けば今後20年で日本の労働人口は10%以上減少すると予測されている。経済成長にとって男女平等が鍵であり、労働市場における男女格差を解消することが日本の発展につながると、調査は結論づけている。


日本は「働く母」に優しくない、OECD:日経ウーマンオンライン【トレンド(キャリア)】

関連サイト
OECD.org - OECD
Tokyo Centre - OECD

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厚生労働省 人口動態調査
人口動態調査|厚生労働省




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