覚え書:「3.11後のサイエンス 原発大国からの苦言=青野由利」、『毎日新聞』2013年01月15日(火)付。


        • -

3.11後のサイエンス
原発大国からの苦言
青野由利

政権交代で「原発ゼロ」政策は、あっさりくつがえされる運命にあるようだ。安倍晋三首相は昨年末、民法のインタビューで次のように述べている。「新たに造っていく原発は、40年前の古いもの、事故を起こした福島第1原発のものとは全然違う」。新型炉なら安全だから新増設も可、と受け取れる。
 確かに古い原子炉はリスクが高い。では、新しくすれば安全といえるのか。


 昨年12月、原子力規制委員会の国際アドバイザーに米英仏の3人が就任し、日本での会合に参加した。原発大国からの助言が興味深い。
 「日本の業界の姿勢にショックを受けた」と語ったのはフランス原子力安全機関の前委員長アンドレラコステさんだ。昨年2月、日本政府の事故調査委員会に参加した。その際に、電気事業者が「規則に従ってきた、厳格に守ってきた」と繰り返し述べたことが衝撃だったという。裏を返せば「規則さえ守っていればいい」という態度。「それは危険だ」とラコステさんは苦言を呈する。
 「国策民営」で原発を推進してきた日本では、安全に対する「業界の責任」が曖昧になりがちだが、国際的には常識だ。国際原子力機関が掲げる10項目の「安全原則」にも明記されている。事業者には、規制を超え、自ら安全を確保する責任がある。ところが、日本では、そうした「安全文化」への認識が事故後も希薄。とすれば、炉だけ新しくても意味がない。
 米原子力規制委の元委員長、リチャード・メザーブさんによれば、米国でも79年のスリーマイル島原発事故以前は「安全にとって一番重要なのは設計」と言われていた。「炉が新しければ安全」に通じる話だ。しかし、事故後は認識が改められた。原発事業者が「原子力発電運転協会(INPO)」を組織し、安全性を互いに評価しあう。年1回の会合で一番成績が悪かった企業の社長は改善計画を説明しなくてはならない。「みんなの前で恥をかきたくない」というプレッシャーを安全向上に利用する仕掛けだ。


 実は日本にもINPOをめざした「日本原子力技術協会」があったが、役割を果たせず昨年改組した。今度こそ日本版INPOをめざすというが、具体性が見えない。さらに、世界に比べ、日本で影が薄いのが「個人の責任」だ。英原子力規制機関長のマイケル・ウェイトマンさんは「原発を再稼動する前に所長から個人の書簡をもらってはどうか」と提案した。「安全だ、証拠があると、責任をもって署名してもらう」。そうすれば、何かあった時に「規則を守っていました」ではすまない。
 ここで、「炉が新しければ安全か」という話に戻りたい。3人の話を総合すれば、「炉の型はともかく、大事なのは事業者の安全文化」となるだろう。そして、その不備を長年放置し、時に助長してきた責任は自民党にもある。
 アドバイザーの助言を聞いた規制委員会の田中俊一さんは次のように述べている。「一人一人が責任を持って考え、それを経営管理が後押しするという点で、日本の状況は不満足。個人の考えだが、(それらに対する)信頼感がもてなければ、運転再開してはいけないのかもしれない」。新増設どころではない。(専門編集委員
    −−「3.11後のサイエンス 原発大国からの苦言=青野由利」、『毎日新聞』2013年01月15日(火)付。

        • -


http://mainichi.jp/feature/news/20130115ddm016070010000c.html






原発大国から苦言されても、「再稼動」「新増設」とか終わっているのではないかと思いますけれども、安部晋三閣下。

そもそも、放射性廃棄物は未来への負担であり、タコ部屋労働といってよい、最前線の労働者の問題とかどうするのでしょうかねぇ。

そういえば、原発大国フランスでも、最低辺の労働者はよくわからないまま酷使されているという日本と同じ構造ですよね。



        • -

 最後に下請け労働者の問題を取り上げなければなりません。なぜならそれがきわめて重大な問題だからです。下請け労働者数は大きく増加しています。理由は収益を上げる、ただそれだけのためです。これら原発の下請け作業員は個人契約で働いているのですが、フランス電力の正社員と比べ、賃金は大変低く抑えられています。彼らはなんの保障も受けられないまま必要に応じて原発に送り込まれています。さらに正社員ほど細かな健康経過観察も受けていません。そこで、ある疑問が生じてきます。原発の危険性についてろくに情報を与えられていない人間が、安全管理業務に携わって大丈夫なのだろうかと。毎年二万人から三万人が放射線にさらされる作業についているのです。フランス原子力安全局(ASN)の二〇〇八年の年次報告書のなかでも、原発内の危うい作業上教が報告されています。業務委託の契約期間は三年であり、フランス電力が資格を持つ企業よりも馴れ合いの企業を採用していることから保守管理上の問題が危ぶまれるというものです。原発事故が発生した際は下請けの作業員が緊急措置にあたることになるわけですから、なおのこと事態の悪化が懸念されます。今回の福島原発事故のケースもそうですが、下請け任せの現場の実態を知れば知るほど危惧は募ります。
    −−コリーヌ・ルパージュ(大林薫訳)『原発大国の真実 福島、フランス、ヨーロッパ ポスト原発社会へ』長崎出版、2012年、207ー208頁。

        • -








402

403_2


原発大国の真実: 福島・フランス・ヨーロッパ ポスト原発社会へ向けて
コリーヌ ルパージュ
長崎出版
売り上げランキング: 258,006

ドイツ反原発運動小史――原子力産業・核エネルギー・公共性
ヨアヒム・ラートカウ
みすず書房
売り上げランキング: 118,075