覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 生活保護見直し 影響は?=湯浅誠」、『毎日新聞』2013年01月25日(金)付。



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くらしの明日
私の社会保障
生活保護見直し 影響は?
湯浅誠 反貧困ネットワーク事務局長

下がるのは「国民生活の最低ライン」
 「生活保護を受けている人たちは、ちょっともらい過ぎではないか」と問えば、7〜8割の人が「そうだ」と答えるだろう。では、「生活保護を受けていない年収200万〜300万円の低所得者層に限って負担増を求めるのは?」と聞いたらどうだろう。やはり7〜8割の人が「とんでもない」と答えるのではないだろうか。必死で働き、暮らしを立て、子どもを育てている、こんな自分たちからむしり取るのか−−と。
 実は、二つの問いは聞き方が違うだけで、同じ話だ。「えっ、何言ってるの?」と驚かれるところに、今の私たちの課題がある。


 例えば、年収200万〜300万の子育て世帯は、子どもの学用品費や修学旅行の積立金を自治体から支払ってもらっている。中学校では年間10万円を超える。「就学援助制度」と呼ばれ、生活保護を受けていない141万人の子どもたちが利用している。
 誰をこの制度の対象にするかは自治体によって異なるが、多くの自治体では「生活保護より10%高い世帯まで」などと、生活保護を基準に規定を設けている。
 だから、生活保護費が下がれば、今まで就学援助を受けていた人たちの中から、対象から外れる人が出る。ある自治体の試算では、その割合は2〜5%。2万8000人から7万500人になる。
 就学援助を受けている親たちの中には「生活保護はもらい過ぎ」と考える人がいるだろう。だが、それが自分の子どもの就学援助の打ち切りにつながると分かって言っているのか、私は疑問だ。


 また年収200万〜300万の低所得世帯には、住民税を免除されている人たちがいる。全国で3100万人に上ると推計されている。年収いくら以上の人から住民税を払ってもらい、いくら以下の人を免除するかはどうやって決めるのか。これも生活保護費を参考に決める。
 生活保護費が下がれば、住民税を免除する基準も下がる可能性が高い。実際、04年には生活保護費の引き下げとともに、住民税の免除基準も下がった。3100万人のうち、対象者がどのくらいになるのかは分からない。しかし「生活保護の人たちはもらい過ぎ」と思っている人たちが、自分が住民税を支払うことになる事態を覚悟して言っているのか、私は疑問だ。
 なぜそうなるのか。下がるのは「生活保護の人が受け取る金額」ではなく「国民生活の最低ライン」だからだ。ここを間違えると、影響の大きさを測り損ねる。「後の祭り」にならないかを心配している。
ことば 生活保護基準 憲法が定める「最低限度の生活」を保障するための基準。食費、被服費、光熱費などの日常生活費を賄う生活扶助が基本で、必要に応じて住宅扶助や教育扶助、介護扶助などが加算される。受給申請者の年齢や性別、住んでいる地域や家族構成によって、基準が異なるものもある。生活保護制度では、収入との差額が保護費として支給される。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 生活保護見直し 影響は?=湯浅誠」、『毎日新聞』2013年01月25日(金)付。

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