覚え書:「【書評】はだしのゲン わたしの遺書 中沢啓治 著」、『東京新聞』2013年01月27日(日)付 + α




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【書評】はだしのゲン わたしの遺書 中沢啓治 著

◆最期まで被爆を伝え
[評者]岸本 葉子 エッセイスト。著書に『「そこそこ」でいきましょう』など。
 『はだしのゲン』は、広島で被爆した少年が主人公の漫画だ。貧困や偏見を乗り越え生き抜く姿を、作者の体験をもとに描いた。その作者、中沢啓治さんの自伝が本書である。視力が衰え漫画の筆を折った後、病のため生の残り時間を意識しながらまとめられた。
 意外なことに、漫画家となっても原爆をテーマにしようとは考えていなかったそうだ。振り返るには酷(むご)すぎる記憶。後遺症や死の不安、被爆者への差別に苦しむ中、「原爆のことから逃げてばかりいたのです」。母の死をきっかけにこのテーマと取り組む。終戦から二十一年後のこと。以来断続的に描き継いで、執筆を断念するまで次の構想を練っていた。
 怒りが自分を突き動かしてきたと述べる。危機感もあっただろう。雑誌連載時、読者の反響から、原爆の実態がほとんど伝えられていないことにショックを受けた。福島の風評被害をニュースで知ったときは、放射能がいまだ正しく理解されていないことを痛感したという。
 少女期に『はだしのゲン』を読んだ私は、もう「卒業」した本のような気になっていた。が今なお、あるいは今こそ読むべきではと再認識する。わかりやすい文章と漫画の抜粋とによる構成。ふりがなの多用。大人にも子どもにも届けたいという作者の思いが伝わってくる。
なかざわ・けいじ 1939年生まれ。73〜85年「はだしのゲン」を雑誌に連載。昨年12月死去。
朝日学生新聞社 ・ 1365円)
<もう1冊>
 原民喜著『夏の花』(集英社文庫)。米軍の原爆投下で地獄絵と化した広島の姿を書き残した表題作を含む作品集。
    −−「【書評】はだしのゲン わたしの遺書 中沢啓治 著」、『東京新聞』2013年01月27日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013012702000139.html


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みんなの広場
はだしのゲン」を後世に
高校生 17(神戸市北区)

 広島原爆で被爆した自らの体験を基にした漫画「はだかのゲン」の作者、中沢啓治さんが先月亡くなった。戦争と原爆の恐ろしさ、平和の尊さを伝えようとされたのだと思う。
 漫画では、戦争で家族がばらばらになったり、大切な人が相次いで死んでいったりする中、主人公のゲンがたくましく生き抜こうとする描写が強く印象に残っている。大量のガラス片が体に突き刺さり、助けを求めてもがき、また水を求めてさまよう様子などが描かれ、あまりの惨状に凝視できないページもある。しかし、それは私たちに戦争のありのままを教えてくれているのだ。
 戦後70年近くになり、戦争を知らない人たちがほとんどを占める。この日本で、多くの人が亡くなった恐ろしくて悲惨な戦争があったということを次の世代に伝えていくためにも、大切な漫画だと思う。
    −−「みんなの広場 『はだしのゲン』を後世に」、『毎日新聞』2013年01月30日(水)付。

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