覚え書:「書評:『政治はなぜ嫌われるのか――民主主義の取り戻し方』 コリン・ヘイ著 評・宇野重規」、『読売新聞』2013年02月10日(日)付。




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『政治はなぜ嫌われるのか――民主主義の取り戻し方』 コリン・ヘイ著

評・宇野重規政治学者・東京大教授)
世界共通の気分


 まずはテストをしていただきたい。あなたは次の三つの言明をその通りだと思うか。

 第一、政治家はいくら建前で公共を語っても、実際には自分の利益しか考えていない。第二、政治家は自分の狭い利益を追求することで、最終的には(企業などの)大きな利益にからめとられている。そして第三、政府はせっかくの税金を無駄に使っている。

 もし、三つともイエスと答えたなら、あなたは現代の典型的な有権者である。いや、実際その通りではないかと怒らないでいただきたい。著者に言わせれば、現代世界の多くの民主主義国家の有権者が、同じように考えていることが問題なのである。

 言い換えれば、このような意見は、各国ごとの政治の評価というより、世界共通の気分である。そして、この気分は1970年代以降に顕著になるが、この時期に一斉に政治家の資質が悪くなったとは考えにくい。だとすれば、むしろ人々の政治への見方が変わったのではないかと著者は考える。

 変化の原因は何か。意外な真犯人として浮上するのが、政治学における公共選択論である。このモデルによれば、政治家や公務員は、他の個人と同様、費用と効果を計算し、自己利益を合理的に最大化しようとする存在である。

 公共選択論は、市場化や民営化を推進する新自由主義とも相性がいい。結果として、学界のみならず、社会一般の考え方、そして政治家自身にも影響を及ぼすことになった。

 が、問題なのは、この考え方が自己実現的であることだ。つまり、人々がそう思えば思うほど、実際になってしまう。政治はますます嫌われ、棄権者が増大するという悪循環となる。

 政治を否定すれば、私たち自身の未来の選択能力を否定するばかりだ。今こそ悪循環を断つべきだという著者の考えは一考に値する。吉田徹訳。

 ◇Colin Hay=1968年生まれ。シェフィールド大教授。著書に『Political Analysis』など。

 岩波書店 2800円
    −−「書評:『政治はなぜ嫌われるのか――民主主義の取り戻し方』 コリン・ヘイ著 評・宇野重規」、『読売新聞』2013年02月10日(日)付。

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http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20130214-OYT8T00985.htm






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