覚え書:「今週の本棚:さらさらさん=大野更紗・著」、『毎日新聞』2013年03月24日(日)付。


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今週の本棚:さらさらさん
大野更紗・著
ポプラ社・1470円)

 ビルマミャンマー)の奥地で難民支援の使命感に燃える大学院生から一転、原因も治療法も不明な難病を患い、「助けられる」当事者になってしまった著者。痛みと苦しみに満ちた病気との闘いをユーモアに包んで書き上げた前作『困っているひと』(ポプラ社)が話題になってから2年間に、病にとどまらず障害や震災、雇用など、好奇心の赴くままに書いた文章と対談をまとめた。
 故郷は、東京電力福島第1原発に近い「山の中」。病気で参加のかなわぬ反原発デモをインターネットで見つめ、福島の良心に電話する。話題は、ナスの出来映え。故郷を離れ東京で暮らすうしろめたさを感じながらも、人々の日常を見つめ、書くことの意義を見いだしてゆく。その語り口は率直さに満ちている。
 電子書籍隆盛の今だからこそ、「本にしかできないことを」と、小口に似顔絵を刷った。傾ける方向によって「更紗ちゃん」が困ったり、笑ったり。その表情のように、難病や原発事故に苦しむ故郷の不条理を怒りつつ、ユーモアや遊び心も忘れない。難病を抱えながら作家として生きることを「旅」に例えた著者の、「旅先」からの報告書だ。
    −−「今週の本棚:さらさらさん=大野更紗・著」、『毎日新聞』2013年03月24日(日)付。

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http://mainichi.jp/feature/news/20130324ddm015070017000c.html






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