覚え書:「書評:閉経記 伊藤比呂美著」、『東京新聞』2013年4月14日(日)付。




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閉経記 伊藤 比呂美 著

2013年4月14日

◆体の衰えを面白がる
[評者] 井坂 洋子 詩人。著書『嵐の前』『はじめの穴 終わりの口』など。
 ぶっちゃけトークはとてもむずかしい。まず度胸がいる、技術もいる。相手を敵に回さない自信がある。伊藤比呂美は宝塚風にいえば、我ら“現代詩組”のトップスターだが、組を卒業して広い世界へ飛び立った。残された者はさみしいような誇らしいような気持ちだ。
 ぶっちゃけトークなのに俗っぽくなく品性を感じさせるのは、肩書とか学歴とか略歴に記されるようなハードな部分ではなく、いちずに人間性に由来する。文中に「独学とは、なんとアナーキーなことであることか」という一文があったが、好きなように生きてきたというだけではない。生きることを修整しながら考え考えやってきたという感じがする。
 「シャイ」な自分が、「ぱかんと自分をあけっぴろげられるように」なった。そうしたら世界が広がったという、その秘密というか秘策がここにある。
 熊本の両親をみとり、自分が巣作りしたカリフォルニアの家も娘たちが次々に独立して、年の離れた夫と残され、やがて一人になるだろう予感がある。誰もが味わう無常と老いる肉体に目をこらすが、それが“新鮮で面白い”という。
 「漢」と書いておんなとルビをふり同胞たちに語りかけるこのエッセイ集は、フェミニズムということばの観念や知的装いをくだき、実質を見せつけている。
いとう・ひろみ 詩人・小説家。著書『河原荒草』『ラニーニャ』『女の絶望』など。
中央公論新社・1470円)
◆もう1冊
 平田俊子著『きのうの雫』(平凡社)。詩人兼小説家のエッセー集。記憶の中の情景を繊細かつユーモラスにつづる。
    −−「書評:閉経記 伊藤比呂美著」、『東京新聞』2013年4月14日(日)付。

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