覚え書:「書評:3・11行方不明 石村博子著」、『東京新聞』2013年4月14日(日)付。




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3・11行方不明 石村 博子 著

2013年4月14日

◆生死の境を揺れる心
[評者] 稲葉 真弓 作家。著書『半島へ』『千年の恋人たち』など。
 東日本大震災から二年、その間私たちは、多くのメディアを通して「死者・行方不明者」という言葉を何度も耳にし、目にしてきた。死者に関しては、なんとなくだが一個の肉体をイメージすることができる。遺体は「死の確認=死亡宣告」でもあるのだ。しかし、行方不明者の場合はどうだろうか。遺体はない。生死は曖昧なまま日々は過ぎていく。
 本書は「行方不明者」にまつわる七つの章で構成されているが、それぞれの章にそれぞれの家族の「あの日」と「その後」が丁寧に描き出されている。福島県大熊町で被災、実父と妻を亡くしたうえ、当時七歳だった娘を捜し続ける若い父親、あるいは、同居の家族四人を失い、うち二人が行方不明という男性など、行方不明者を持つ家族の思いは複雑だ。だめだとわかりつつもあるいは…と、心は生死の境を揺れるからだ。
 家族の喪失感は「あの人」「あの子」が姿を現さない限り一生つづくだろう。しかし希望がないわけではない。彼らが遺(のこ)していったものがその後の家族を奮い立たせることもあるからだ。岩手県大船渡市の女子大生の例をあげよう。両親は大船渡の海を愛した彼女を偲(しの)び、漁師料理を出す店を埼玉県に開いた。彼女は残してきた両親に「その後をどう生きるか」を問い掛けてもいるのだ。
いしむら・ひろこ 1951年生まれ。ノンフィクション作家。著書『東京の名家』など。
角川書店・1680円)
◆もう1冊
 石井光太著『津波の墓標』(徳間書店)。被災地で起きているさまざまな現実をつづるノンフィクション。
    −−「書評:3・11行方不明 石村博子著」、『東京新聞』2013年4月14日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013041402000184.html








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