覚え書:「発言 住民参加拒む行政の暴走=國分功一郎」、『毎日新聞』2013年06月13日(木)付。


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発言
住民参加拒む行政の暴走
國分功一郎 高崎経済大学准教授

 5月26日に東京都小平市で行われた住民投票は、都内初の直接請求による住民投票として注目を集めた。特に投票1週間前からは新聞各紙が連日報道し、代表的なテレビニュース番組が大きく取り上げ、投票日には50を越すマスコミ各社が市役所に集まった。運動を応援していた私もこの注目度に驚いた。
 そこには今の政治に対する人々の強い関心と疑問が示されているように思われる。選挙とは別の仕方で自分たちの意見を政治の場に届けるべきではないか……。潜在的には多くの人たちがそう感じているのだ。
 住民投票の選択肢は、道路建設に賛成か反対かではなく、「住民参加で計画を見なおす」か、「見なおす必要はない」かであった。これには二つの意味が重ねられている。
 一つは現行の道路計画の是非。もう一つは住民が自分たちで政治に参加するか否かの選択である。住民側の運動も従来の糾弾型ではなく提案型だった。この運動は住民投票の理念、住民参加の理念そのものを問い直していた。注目された理由の一つはそこにあったと思われる。
 しかし、そうした運動に対する行政側の拒絶反応は想像を絶するものであた。住民投票条例案可決から1カ月後の4月下旬、小平市は突然、成立要件として投票率50%を求める条例の改正案を提案する。「不成立」の場合には開票すらしないという驚くべき内容であったが、住民側はこの不意打ちに十分に対応できず、議会で改正案は可決されてしまう。26日の投票率は35・17%だった。行政が課したハードルを越えられず、住民投票は「不成立」とされた。
 小林正則市長は、住民投票の信頼性を担保するために成立要件が必要であったと強調している、。しかしこの成立要件は実に奇妙なものだ。投票率50%で意見Aが過半数であった場合、意見Aは有権者の4分の1の数(25%)をもって信頼に足るものとされる。ところが、有権者の33%、約3分の1が意見Aに投票しても、投票率が50%に満たなければ−−たとえば投票率が35%にとどまれば−−信頼に足らないものとされる。
 今回の住民投票では小平市有権者14万5024人のうち、5万1010人が投票している。35%という投票率をどう評価すべきか。小林市長が3選された4月の選挙の投票率は37%であった。ほぼ同格と言ってよい。その投票で選ばれた人物が、住民投票の結果を信用に足らないとして内容の公表すら行わないというのは果たして社会正義にかなっているだろうか。今回の50%の成立要件は、道路推進派にはボイコットを、道路には反対だが50%超えを諦めている人には棄権を促した。その中での投票率である。
 住民投票の2日後、東京都は狙っていたかのように国土交通省に事業認可申請を行った。猪瀬直樹都知事には是非とも以上のプロセス全体を考慮し、事業認可申請を再考していただきたい。また、小平市住民投票は正式に実施されたものである。だが、市は投票用紙をまもなく破棄すると言っている。開票を実施せず結果を葬り去ることは許されない。
こくぶん・こういちろう 哲学専攻。著書に「暇と退屈の倫理学」(朝日出版社)など。
    −−「発言 住民参加拒む行政の暴走=國分功一郎」、『毎日新聞』2013年06月13日(木)付。

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