覚え書:「書評:褐色の世界史 第三世界とはなにか ヴィジャイ・プラシャド 著」、『東京新聞』2013年6月23日(日)付。
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褐色の世界史 第三世界とはなにか ヴィジャイ・プラシャド 著
2013年6月23日
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◆支配、暴力を克服する運動
[評者]早尾貴紀=東京経済大専任講師・社会思想史
本書は、第三世界論を二十一世紀に呼び戻す試みだ。「第三世界」と言えば、今ではたいてい「冷戦の残余」や「発展途上国」といったイメージで聞き流されるだろう。しかし、本書はそうではない。著者は第三世界を、フランツ・ファノン(フランス植民地下西インド出身でアルジェリア独立運動に参加した思想家)にならって、「ヨーロッパに対峙(たいじ)するプロジェクト」と位置づける。つまり第三世界とは、地理的・時代的に限定された場所ではなく、帝国主義と植民地主義に規定された諸問題を超克しようとする、未完の思想運動だというわけだ。
政治・経済・文化などあらゆる範囲に浸透する国家的あるいは超国家的な支配と暴力の問題を解決しようというのだから、このプロジェクトに賭けられた理想はあまりに高く、にもかかわらず第一世界・第二世界(米ソとその同盟国)からの妨害と干渉に遭い、挫折させられたのは当然だ。三部構成の見出しが、「探求」から「陥穽(かんせい)」「抹殺」と続くのはそのためだ。
本書を日本語で読む意義も大きい。日本での第三世界論を象徴する『グリオ』と『aala』という雑誌は、一九九五年と九七年に相次いで終刊となった。冷戦崩壊後のグローバリゼーションと戦後半世紀の経過で、第三世界論は退潮した。同時にカタカナの「ポストコロニアリズム」が一部では流行したが、第三世界の歴史経験が忘却されたため、日本の文脈ではそれが血肉となることはなかった。それは、植民地支配をめぐる政治家の妄言や民族差別デモに表れている。すなわち、第三世界とは、現代日本においても呼び戻されるべきプロジェクトなのだ。
アフリカ文学者である訳者が付した渾身(こんしん)の解説は、南アジア史を専門とする著者の知見を補い、さらに東アジアの文脈にまで接続し、本書を真に「世界史」たらしめている。「第三世界の継承者」を未来に生み出す第一歩だ。
ViJay Prashad インド出身、現在米国トリニティ・カレッジ教授。
(粟飯原文子訳、水声社・4200円)
◆もう1冊
本橋哲也著『ポストコロニアリズム』(岩波新書)。植民地での暴力と西欧近代の歴史、さらに現代までの影響を解説した入門書。
−−「書評:褐色の世界史 第三世界とはなにか ヴィジャイ・プラシャド 著」、『東京新聞』2013年6月23日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013062302000173.html