覚え書:「書評:笑いの日本文化 樋口和憲 著」、『東京新聞』2013年07月28日(日)付。



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笑いの日本文化 樋口和憲 著

2013年7月28日


◆平安をもたらす役割
[評者]飯島吉晴天理大学教授、民俗学
 現在、テレビにはお笑い番組が氾濫(はんらん)しており、この浅薄で孤独な「笑い」の商品が大量に制作され消費されているが、一方で日常生活からは深く温かな笑いは失われている。日本の「笑い」はこれでよいのか。また「笑い」とはそもそも何なのだろうか。著者が、柳田国男の笑い論を援用しながら、日本人の「笑い」とその文化を探求したのが本書である。
 著者によれば、本来「笑い」は神に捧(ささ)げるものであり、古くは「烏滸(おこ)の者」という常ならぬ存在が神を笑わせ平安をもたらす特別の役割を演じていたのだという。「笑い」はあの世とこの世を結ぶコミュニケーションの一種でもあり、烏滸の者が神に犠牲を捧げ、そのお返しとして神からの笑いを祈願したのだという。
 音霊(おとだま)を感じ取り多様な価値を生み出す道化者でもある烏滸の者の役割には、日本の「笑い」の本質や可能性を見ることができる。だが、経済や有用性を優先する近代化・都市化が進展し、さらに一元的な価値観が世界を支配するグローバル化の席巻によって、「笑い」や烏滸の者は深く埋没し駆逐されてしまっている。
 しかし同時に、新たな社会の夢と希望を作り出すのに求められるものも、やはり本物の「笑い」と烏滸の者の末裔(まつえい)なのである。本書は、東日本大震災の多くの被災者にも勇気と希望を与えてくれる。
 ひぐち・かずのり 1959年生まれ。日本学術振興会専門調査役。
(東海教育研究所発行、東海大学出版会発売・2100円)
◆もう1冊
 山口昌男著『道化の民俗学』(岩波現代文庫)。狂言や中世劇の悪魔と道化など、世界の笑いとエロスの民俗を紹介。
    −−「書評:笑いの日本文化 樋口和憲 著」、『東京新聞』2013年07月28日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2013072802000169.html





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笑いの日本文化―「烏滸の者」はどこへ消えたのか?
樋口 和憲
東海教育研究所
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