覚え書:「今週の本棚・新刊:『浄土思想論』=末木文美士・著」、『毎日新聞』2013年09月29日(日)付。



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今週の本棚・新刊:『浄土思想論』=末木文美士・著
毎日新聞 2013年09月29日 東京朝刊

 (春秋社・2310円)

 一定の年齢以上の人ならば、既に死んだ親類や友人が、自分の人生に影響を及ぼしていると感じる例は珍しくないだろう。近年、歌の「千の風になって」や映画「おくりびと」がヒットし、東日本大震災は、戦後最多の犠牲者を出した。「死者との関係」は、もはや市民一般のテーマになっているかのようだ。本書は、死後の極楽往生を説く浄土教の系譜を、思想史上に位置付けし直した。

 インドを源流に中国で発達し、平安から鎌倉時代の日本で独自の進化を遂げた浄土教。明治以降、特に親鸞の思想はどこかキリスト教に近い線で再解釈され、知識人層に評価されてきた。他方、庶民レベルでは、素朴な往生観に加え、ときに「葬式仏教」と批判されるあり方が続き、前者との溝は埋まらないままだ。

 最新の研究成果も絡め、浄土教の基本経典の成立過程や中世仏教における位置をまとめる。親鸞浄土教の「近代化」に貢献した明治期の思想家、清沢満之(まんし)を読み直す視点も刺激的。さらに、生きた人間同士から一神教の神まで含めた「他者」とどう関係できるかに話を進める。本書の段階ではまだ途上にある議論だが、その射程は広く、深い。(生)
    −−「今週の本棚・新刊:『浄土思想論』=末木文美士・著」、『毎日新聞』2013年09月29日(日)付。

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