覚え書:「今週の本棚・本と人:『ダイオウイカ、奇跡の遭遇』 著者・窪寺恒己さん」、『毎日新聞』2013年11月10日(日)付。



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今週の本棚・本と人:『ダイオウイカ、奇跡の遭遇』 著者・窪寺恒己さん
毎日新聞 2013年11月10日 東京朝刊

 (新潮社・1470円)

 ◇深海での「世紀の出合い」伝えたい−−窪寺恒己(くぼでら・つねみ)さん

 「来たぞ、ジャイアントだ」。2012年7月10日、小笠原諸島父島南東の深海630メートル。乗船していた潜水艇の前に、ついにダイオウイカが現れた。体色を金から銀へと変えながら、えさのソデイカを「自分のものだ」と言わんばかりに抱え、さらに深みへと沈んでいく。

 人類とダイオウイカが、その生息域で初めて出合った23分間。「こんなに長く、ダイオウイカと一緒にいていいのかなと思った。去っていった時、ちょっと安堵(あんど)した」。コレクションディレクターを務める国立科学博物館標本資料センター(茨城県つくば市)の研究室で“世紀の遭遇”を振り返る。

 イカやタコといった頭足類の研究を始めて約40年、ダイオウイカを追い続けて約10年。「最後の最後で総力を挙げよう」とNHKやディスカバリーチャンネルなどの協力も仰いだ。出港の際、NHKのプロデューサーからダイオウイカ撮影の可能性を問われると、「1%あるかどうか」と答えたそうだ。「潜水艇を見て、本当にダイオウイカを撮れるかなと思った。『私がやれば何か撮れるだろう』という期待を裏切ってはいけないという義務感があった」と当時の重圧を明かす。

 1月にNHKで放送された遭遇の模様は反響を呼び、今夏、東京・上野であった同博物館の特別展「深海」には3カ月の期間中、延べ約60万人が詰めかけた。しかし、「見て来て、映像を撮っただけでは科学論文は書けない。科学的に証明するのはすごく大変」という。「ただ、この経験、見たことを私は人に伝えたい。一般書では、考えていること、感じたことも書ける」と力を込める。

 本書では、若いころ英国のイカ類研究の大御所のもとで研究したり、世界旅行の途中、米国のスミソニアン自然史博物館に押しかけて標本を見せてもらったりしたエピソードも披露した。海外を目指す学生がもっと増えてくればと願う。「人間としてみんな同じように悩み、生活していることが、海外に行くと分かる。片言でも話していると、人と人とのつながりが出来てくる。そういうことは、日本にいるだけでは分からない」<文・広瀬登>
    −−「今週の本棚・本と人:『ダイオウイカ、奇跡の遭遇』 著者・窪寺恒己さん」、『毎日新聞』2013年11月10日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20131110ddm015070061000c.html


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窪寺 恒己
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