覚え書:「今週の本棚・本と人:『おとなの背中』 著者・鷲田清一さん」、『毎日新聞』2013年11月17日(日)付。
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今週の本棚・本と人:『おとなの背中』 著者・鷲田清一さん
毎日新聞 2013年11月17日 東京朝刊
(角川学芸出版・1680円)
◇不如意への「耐性」が必要に−−鷲田清一(わしだ・きよかず)さん
しなやかな、それでいて強く根を張った哲学者の思考が随所に光るエッセー集だ。2007年以降、新聞・雑誌に寄せた文章をまとめた。
冷戦崩壊でイデオロギーの時代は終わったといわれるが、逆にイデオロギーは強まっているという。サステイナビリティ(持続可能性)、安心・安全、情報公開など「誰も正面切って反対できない」流行の言葉に潜んでいる。例えば「多様性」が称揚されるのに、なぜ多重人格は認められないのか。「問題として突き詰められていないと感じます。これらの言葉を出せば、それ以上議論できないという意味では閉塞(へいそく)感の原因にさえなっています」
東日本大震災でクローズアップされた「絆」も、「被災地では初めから大切さがよく分かっていた。むしろ遠くにいる人々が自分たちの失ったものを確認しようと使った」と見る。
執筆時期は震災の前後にわたるが、ぶれないまなざし、主張の一貫性に驚かされる。「自立」とは、他人に依存しない独立(independent)ではなく、「いざという時に相互依存的(interdependent)な仕組みを生かせるようにしておくこと」。震災前に記したこの論も、いっそう重く響く。
タイトルは、人生の中で「大人でも子供でもない期間」が長くなり、「自分が大人か子供かはっきりしない人が多くなった」日本の現状を反映している。
「かつては場数を踏み、痛い目に遭う体験を通して、生きていくのに不可欠な『見極め』がつく大人になりました。子供もさまざまな職業の大人を見て、生き方を選択できた。ところが今は失敗する可能性があらかじめ排除され、大人の仕事にも多様なイメージを描けません」
似たような「おとなの背中」しか見えなくなった結果、「子供たちは万能感か、無能感かの両極端に振れるようになった」と指摘する。「人口減少時代に入り、物事のスカッとした解決は難しい。思い通りにならない現実への『耐性』が必要です。大人たちは、たたずまい全体からにじみ出る生き方のモデルを後の世代に示すことが求められています」<文・大井浩一/写真・森園道子>
−−「今週の本棚・本と人:『おとなの背中』 著者・鷲田清一さん」、『毎日新聞』2013年11月17日(日)付。
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http://mainichi.jp/shimen/news/20131117ddm015070025000c.html