書評:三谷太一郎『学問は現実にいかに関わるか』東京大学出版会、2013年。


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 政治学教育は単なる専門性、または単なる一般性をもつものではない。専門性を媒介とする一般性、または一般性を媒介とする専門性をもつのであって、それが政治学教育の総合性でえある。したがって大学院における政治教育はスペシャリストというよりも、むしろジェネラリスト、すなわちオルテガが排撃したような「一つのことに知識があり、他のすべてのことには基本的に無知である人間」、要するに専門化された「大衆的人間」を逆モデルとし、丸山眞男ジョン・スチュアート・ミル(John Stuart Mill)のことばを引いて政治学に携わる者のモデルとして提示した「あらゆることについて何事かを知り、何事かについてあらゆることを知る人間」の養成を目指すべきであろう。
    −−三谷太一郎「学問はなぜ必要か」、『学問は現実にいかに関わるか』東京大学出版会、2013年、30頁。

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三谷太一郎『学問は現実にいかに関わるか』東京大学出版会、読了。学問は現実にどう関わるべきか−−。日本政治思想史の碩学が、吉野作造蝋山政道長谷川如是閑南原繁、岡義武等々先人の知的格闘を通して、学問の意味を問う優れた労作。学生に読んで欲しい。

インプットを学習とすれば学問の本質的特徴とは未知なるものの探究だ。それは現実との緊張関係なしには遂行し得ない。本書は近代日本の出発点(福澤諭吉)から始まり、政治思想史の巨人の格闘を追跡するなかで、その営みを明らかにする。

著者は「現実」と「現在」の混同を諫める。学問とは、多様な側面をもつ現実の構造を捉えることだ。現在への惑溺は状況判断を曇らせる。それに抗う知的誠実さが学問の自律性と任務といってよい。そして生活世界との往復なしにはあり得ない。

本書の星は、やはり丸山眞男論。謦咳に接した著者の敬愛に満ちた丸山論は、その姿を豊かなものへと更新する。と、同時に著者の史的追跡は、東大の良心の系譜を明らかにするものでもある。「権力崇拝を退けよ」。その試練を引き受けることが課題だ。

本書は著者が折々に発表した講演、新聞記事、短評の集成録。筆者の知的関心の一貫性もさることながら、本書は書き下ろしのごとき水準に驚く。編集者の卓越した力量に驚いてしまう。ほんと、おすすめです。



学問は現実にいかに関わるか - 東京大学出版会






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学問は現実にいかに関わるか
三谷 太一郎
東京大学出版会
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