覚え書:「くらしの明日 私の社会保障論 時代とともに変わる形態 日本の『伝統』家族=山田昌弘」、『毎日新聞』2014年01月08日(水)付。



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くらしの明日 私の社会保障
時代とともに変わる形態 日本の「伝統」家族
山田昌弘 中央大教授

 明けましておめでとうございます。お雑煮を食べ、初詣をするなど、伝統行事に親しんだ人も多いかもしれない。しかし、私たちがなじんでいる風習がいつから始まったのか、本当に伝統なのか、と言われると、不確実なものも多いのも事実だ。
 家族を研究していると、「日本の伝統家族」といっても、どの時代、どの地域を基準にするかで、内容は違ってくる、と感じる。
 例えば結婚制度。平安時代は「源氏物語」で描かれているように、妻問婚が行われていた。男性が女性の家に通い、子どもが生まれれば妻の実家で育てたのである。鎌倉時代以降、女性は結婚したら男性の家に入る嫁入り婚が一般化したが、それでも「大奥」に典型的にみられるように、富裕層の間では一夫多妻が普通だった。1898年の明治民法施行で、キリスト教の伝統に従い一夫多妻は法的に廃止されたが、習慣は根強く残っていた。一夫一妻が定着するのは戦後になってからである。
 夫婦の姓も同じだ。「夫婦同姓が日本の伝統」という人がいて、びっくりしたことがある。日本は今の中国、韓国と同じように、伝統的に夫婦は別姓だった。明治維新後も夫婦別姓が続いたが、明治民法の制定時、欧米の習慣に合わせて夫婦同姓になった。「伝統日本の習慣は野蛮」と、1000年以上続く伝統的な慣習を捨て、無理やり夫婦同姓に変えたのである。夫婦同姓は、日本でたかだか100年少しの歴史しかない。
 「夫は外で仕事、妻は家事・育児」という性別役割分業は、さらに新しい。戦前までは、ほとんどの庶民は農家など自営業で、男女が生産労働に従事しており、家事や育児は手のすいた人が片手間に行っていた。富裕層は乳母や子守を雇って子どもの面倒を見た。家事育児を専らにする専業主婦が一般化したのは、19世紀の英国社会であり、西洋文明の広がりとともに全世界に広がったのである。
 日本では、工業化が進んだ戦後の高度経済成長期に、米国のテレビドラマが放映されたのとともに専業主婦が普及。一方、専業主婦の本家家元であった欧米社会では、1980年代に社会構造の転換とともに女性の社会進出が進み、専業主婦は少数派になった。欧米に遅れて専業主婦が一般化した日本では「夫は外で仕事、妻が家で家事育児」という分担が、あたかも伝統であるかのように言われている。それにこだわる人がいるのは、学問的にみればおかしいことである。
 時代とともに家族形態は変わる。どの形態が良いとか悪いとかではない。日本でも時代に合わせて、家族に関わる制度や税制や社会保障のあり方を変えることが必要になっている。
ことば 共働き世帯の増加 厚生労働省の「平成24年版 働く女性の実情」によると、夫婦共働き世帯は1980年代から増加傾向にある。97年以降は専業主婦世帯を上回り、2012年に1054世帯と過去最多となった。一方、専業主婦世帯は減少傾向にあり、12年は787万世帯と過去最低だった。
    −−「くらしの明日 私の社会保障論 時代とともに変わる形態 日本の『伝統』家族」、『毎日新聞』2014年01月08日(水)付。

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