覚え書:「書評:花森安治伝 日本の暮しをかえた男 津野 海太郎 著」、『東京新聞』2014年01月12日(日)付。


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花森安治伝 日本の暮しをかえた男 津野 海太郎 著

2014年1月12日


◆雑誌通じ生き方問う
[評者]鷲尾賢也=評論家
 雑誌・書籍、文芸・学芸といったジャンルをこえ、時代を画した伝説的な存在を大編集者という。文芸春秋池島信平、新潮社の斎藤十一みすず書房小尾俊人(おびとしと)などがそれにあたるだろう。「暮しの手帖」という独創的な雑誌を育てた花森安治も、もちろんそのひとりだ。
 編集の定義はむずかしい。しかし、編集者なしの雑誌や書籍はありえない。では、何を、どうやって、彼らは世に問うたのだろうか。本書は、花森の足跡(生涯・編集現場・執筆活動)を追いながら、「編集者とは何か」を考えた一冊。
 神戸に生まれ、旧制松江高校から東京帝大。そして「帝国大学新聞」、化粧品会社宣伝部、軍隊を経て「欲しがりません勝つまでは」といった標語作りにも関係した大政翼賛会宣伝部員という経歴。
 戦中の反省をこめて、みずからの体験を注ぎ込んで編集されたのが「暮しの手帖」。広告が一切ない。ストーブや洗濯機、炊飯器などの徹底した商品テスト。また独自の料理記事や「戦争中の暮しの記録」特集。新鮮なかつ大胆な発想によって、大雑誌に育てたプロセスが、編集者だった著者の視点から追究される。
 神話になっている編集スタイル、誌面作り、あるいは生き方・考え方。キナ臭くなった現在、花森だったら、どんな企画によって時代に抗するのか、など考えさせられることが多かった。
(新潮社・1995円)
 つの・かいたろう 1938年生まれ。評論家。著書『滑稽な巨人−坪内逍遙の夢』。
◆もう1冊
 植田康夫著『雑誌は見ていた。』(水曜社)。「暮しの手帖」をはじめ、戦後日本の雑誌の興亡を生き生きと描く。
    −−「書評:花森安治伝 日本の暮しをかえた男 津野 海太郎 著」、『東京新聞』2014年01月12日(日)付。

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津野 海太郎
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