覚え書:「今週の本棚・新刊:『戦争記憶の政治学』=伊藤正子・著」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。

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今週の本棚・新刊:『戦争記憶の政治学』=伊藤正子・著
毎日新聞 2014年02月16日 東京朝刊

 (平凡社・2940円)

 2000年6月27日、韓国のハンギョレ新聞社を約2400人が取り囲み、襲撃する事件が起きた。彼らはかつてベトナム戦争に参戦した軍人で、ベトナムでの韓国軍の虐殺行為を検証し、謝罪しようという新聞のキャンペーンに猛反発したのだ。

 この事件を端緒に、ベトナム現代史を研究する著者は、韓国とベトナムの政府や住民が過去の虐殺事件にどう向き合ったかを丁寧に検証していく。見いだされるのは、韓国における「自国の負の歴史を直視することの難しさ」であり、ベトナムにおける「ナショナルヒストリー(公的な歴史)が国家にとって不都合な個人の記憶を切り捨てていく」さまだ。

 その中で、自国民から「売国奴」とののしられ、ベトナムの人々からは時に冷たい目を浴びながらも虐殺を記録し、犠牲者に謝罪しようとする韓国のNGOや個人がいる。彼らをゆるし、受け入れるベトナムの人々も。著者は淡々と記録するが、その姿は感動的だ。「和解は、国家と国家の関係を通じてのみ、達成されるものではない」との一文が響く。

 翻って日本は? 過去の戦争や植民地支配について中国、韓国と和解するための教訓に満ちている。(阿)
    −−「今週の本棚・新刊:『戦争記憶の政治学』=伊藤正子・著」、『毎日新聞』2014年02月16日(日)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20140216ddm015070017000c.html





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