覚え書:「シェアをデザインする [編著]猪熊純・成瀬友梨・門脇耕三 [評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)」、『朝日新聞』2014年02月23日(日)付。



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シェアをデザインする [編著]猪熊純・成瀬友梨・門脇耕三
[評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)  [掲載]2014年02月23日   [ジャンル]社会 

■私有からの転換、日本に好機

 私有からシェアへという、パラダイム転換が、今、あらゆる領域、あらゆる場所で話題になっている。その転換で、われわれの生活、社会はどう変わるのか。実践者たちの声を通じて、その実体が、具体的に語られる。
 なかでも、最も耳目を集めているのは、シェアハウスという、一種の共同生活スタイルのアパートである。多少、家賃が割高でも、仲間とリビングやダイニング、水周りを共有して暮らせる、この新しい集合住宅は、若者のみならず、中高年の単身者からも、さみしくない老後のための新しい共同体のあり方として、がぜん注目されている。しかもシェアという方法が、居住スタイルにとどまらず、生産、消費、創造を含む社会のすべての領域に拡大しつつある現状を、本書は生々しく記述する。
 日本は、このシェアという方法で、世界をリードできるのではないかという可能性も感じた。少子高齢化で、高度成長期に築きあげた莫大(ばくだい)なボリュームの建築群が、一気に余り始めているからである。シェアは日本の都市自体をリノベーションする、新しい方法論でもありうる。
 シェアが日本的であると感じたもうひとつの理由は、日本人の持っているやさしさが、日本社会のセキュリティーの高さ、犯罪率の低さが、シェアというゆるいシステムに適合しているからである。シェアハウスは、実は、日本の昔ながらの下宿屋の再来という説もあって、シニアには昭和のなつかしい香りもする。
 1990年代以降の社会、経済的停滞、特にかつて日本をリードしていた大企業の不振と無策とによって、シェアシステムが活躍する隙間が、無数に出現したことも、本書から見えてきた。その意味で、シェアは日本社会にとって、起死回生の策となるかもしれない。経済のグローバル化に乗り遅れたかに見える日本が、再び先にたつための、強い武器になるかもしれない。
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 学芸出版社・2310円/いのくま・じゅん 建築家。なるせ・ゆり 建築家。かどわき・こうぞう 明治大専任講師。
    −−「シェアをデザインする [編著]猪熊純・成瀬友梨・門脇耕三 [評者]隈研吾(建築家・東京大学教授)」、『朝日新聞』2014年02月23日(日)付。

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