覚え書:「書評:人間なき復興 山下 祐介・市村 高志・佐藤 彰彦 著」、『東京新聞』2014年03月09日(日)付。
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人間なき復興 山下 祐介・市村 高志・佐藤 彰彦 著
2014年3月9日
◆数値化される被災者
[評者]米田綱路=書評紙ライター
震災から三年、国民の過半数が脱原発を望むのとは裏腹に、政府は再稼働に邁進(まいしん)する。なぜ原子力政策は転換できないのか。原因は国民全体の「不理解」にある。無理解ではなく理解したつもりで事を運ぶ恐ろしさ。本書のキーワードだ。
福島第一原発の地元、富岡町から避難した被災者の声を、社会学者が受けとめて論理化した。書名の「人間なき復興」とは、事故後も変わらない社会システムが推進する復興政策のことを指す。
政府は原発避難者の複雑な事情を平準化し、除染と雇用創出で帰還促進を図る。被曝(ひばく)の危険をリスクに置き換え、帰還しなければ避難者と見なさなくなる。
「被災者はかわいそう」は「被災者は身勝手だ」との見方と紙一重だという。東電の賠償もそれを背景に、人間を一方的に数値化して経済に還元する。生まれ育ったコミュニティの崩壊、人間関係の破壊は償いの対象とはならない。
国民の不理解は賠償金への妬(ねた)みや被曝者差別にまで至る。避難者は幾度もそれにぶち当たって人生まで否定された思いになり、耐えきれずに避難生活を「断ち切る」ところまで追い込まれている。そして彼ら自身も何が起きたのか分からないまま避難を強いられ、不理解の宙吊(ちゅうづ)り状態に置かれ続けているのだ。
偏在する不理解を突破できるか。震災三年後の最大の課題がここにある。
(明石書店・2310円)
やました・ゆうすけ 首都大学東京准教授。いちむら・たかし 富岡町住民。さとう・あきひこ 福島大特任准教授。
◆もう1冊
山本義隆著『福島の原発事故をめぐって』(みすず書房)。原子力など、大規模化した科学技術の負の遺産を指摘。
−−「書評:人間なき復興 山下 祐介・市村 高志・佐藤 彰彦 著」、『東京新聞』2014年03月09日(日)付。
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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2014030902000176.html