覚え書:「書評:<辞書屋>列伝 田澤 耕 著」、『東京新聞』2014年03月09日(日)付。


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<辞書屋>列伝 田澤 耕 著

2014年3月9日


◆言葉集めの職人たち
[評者]武藤康史=評論家
 古今東西の辞書編纂者(へんさんしゃ)の「列伝」である。『アメリカ英語辞典』のウェブスター、『和英語林集成』のヘボン、『言海』の大槻文彦など十人ほどを取り上げるが、著者の専門であるカタルーニャ語スペイン語の辞書をめぐる話が半分を占めている。この部分がやはり面白かった。
 カタルーニャ語はスペインの一部で使われる言語で(方言というわけではない、と著者は念を押している)、スペイン国内で公的な使用を禁じられた時期があり、辞書も翻弄(ほんろう)されたようだ。
 辞書を作る人−彼らには語彙(ごい)を集める執念があり、カードを保管する苦労があり、一日も休まず仕事をする勤勉さがあった。独学者もいた。周りから嫌われる者もいた。家族を犠牲にする者もいた。
 興味深い逸話が並んでいるけれども、辞書編纂者を「辞書屋」と呼ぶことにはどうしてもなじめない。辞書を作る人は「職人」であり「商人」でもあるから…などと「まえがき」に書いてあったが、納得できるだろうか。
 もっとも著者は『カタルーニャ語辞典』『日本語カタルーニャ語辞典』『カタルーニャ語小辞典』を独力で作った偉人とも申すべき人であり、その編纂秘話にも一章があてられている。その著者が、自分も「辞書屋」の末席を汚すことができるのは誇り…などと書いているので、余計なことは言いにくい。
 (中公新書・903円)
 たざわ・こう 1953年生まれ。法政大教授。著書『ガウディ伝』など。
◆もう1冊
 佐々木健一著『辞書になった男』(文芸春秋)。『三省堂国語辞典』と『新明解国語辞典』を作った二人の男の物語。
    −−「書評:<辞書屋>列伝 田澤 耕 著」、『東京新聞』2014年03月09日(日)付。

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