覚え書:「ブックウオッチング:街の本屋さん 番外編 シンポジウム『街の本屋と図書館の連携を考える』」、『毎日新聞』2014年03月19日(水)付。


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ブックウオッチング:街の本屋さん 番外編 シンポジウム「街の本屋と図書館の連携を考える」
毎日新聞 2014年03月19日 東京朝刊

 ◇互いの強み生かし相乗効果

 NPO法人本の学校」が主催するシンポジウム「街の本屋と図書館の連携を考える−地域社会での豊かな読書環境構築に向けて」が3月5日、東京都千代田区で開かれた。両者の関係は「発注者」と「納入業者」である。だが、人々の読書環境を充実させるため、書店と図書館が連携して何かできることはないだろうか。その模様の一部を「街の本屋さん」番外編で届ける。【須藤晃】

 ◇地域の「必需品」

 阿刀田 50年前、唯一の勤め人経験が図書館員だった。相当な年月だが、大切なことは変わっていない。総論として申せば紙の本や新聞、つまり印刷というのは人類に極めて大切な事業だ。活字媒体は、電子化という一つの曲がり角にきている。しかし、新刊が電子化されようと過去の本からは逃れられない。紙の本であるがゆえに尊い。なぜなら50年も前に書かれた本が古本屋にある。本は「このページには何字入れるか」を考えて作られた美術品だ。これを後世に残したい。

 片山 公共図書館学校図書館、地元の書店は地域の「必需品」だ。司書、書店の経営者、NPOなどがこれを支える。こうして地域の知的環境や読書環境が整えられていると思う。目に見えない知的環境整備に政治家は頓着しない。図書館と書店は「図書館栄えて、書店滅びる」の関係だろうか? お互いが連携をすることで切磋琢磨(せっさたくま)し合うのが本来の姿だ。鳥取県は県立図書館と地元の書店が連携し、共同で選書している。司書は選書のプロで、書店も分野ごとに得手、不得手がある。書店の経営者も負けるのは不本意なので勉強する。こうして両者の相乗効果が生まれる。

 花井 テレビのドキュメンタリー映画を作ってきた私が小布施町に移り住んだ。図書館を新設することになり、運営や経営を議論する約50人の検討委員会を作った。議論を踏まえ、設計者や館の名称を決めた。人は居心地の良い空間に集まってくる。「図書館では静かにしなくて良い」と決めた。おしゃべり、飲食、子どものスキップもOKにした。「桃太郎」は私たちにとっては古典だが、初めて出会う子どもにとっては新刊。だが、あまり目立たない棚にある館が多い。そこで私は桃太郎を探しては目立つところに表紙を見せて置いてくる。これが私のやっている「桃太郎を探せ」だ。今は全国を回ってコミュニティー図書館づくりを支援している。

 ◇共同でイベント

 高須 豊川堂は昔からの書店だ。連携の仕方を鳥取県米子市の「本の学校」で学んだ。一昨年から愛知県田原市の図書館と連携し、読書文化を根付かせたいとイベントを始めた。子どもの本の展示会「本っていいじゃん!」を開催し、地域の子どもたちに本との出会いを与えている。

 宮川 私の店は甲府駅から徒歩10分の距離にある。山梨県立図書館長に阿刀田さんが就任し、開催した古事記の講座の中で「地元の書店で本は買いましょう」と言ってくれた。これで知的財産である専門書を売っていくことに自信が持てた。今日のテーマは本屋と図書館の連携だが、それぞれの得意分野があるはずだ。

 司会 図書館ができると街の書店の売り上げに影響は出るか?

 阿刀田 私のところでは一冊しか買わない。村上春樹さんの新刊を仮に20冊買ったら、順番待ちは減るが、ほかに買うべき19冊が買えない。急いで読みたい人は書店で買う。待てるなら図書館で予約すれば良い。

 宮川 こぢんまりした店なので影響はない。周りからは「ちょっと下がった」と聞く。民間のサービスレベルまで公立図書館がやると苦しいが、コミュニケーションを取ることで住み分けられる。

 片山 成毛真さんの岩波新書「もっと面白い本」。ここで紹介している本を全部買った人がいて、56万円になるという(笑い)。まねする人がいて良い。図書館のビジネスモデルは「無料貸本屋」ではない。放課後学童クラブを図書館でやれば良い。館を拠点にマタニティー教室を開く。医師や保健師が指導をし、司書が関連書籍を紹介し、縦割りの行政のなかでバラバラにやってきたことを図書館でやると効率的だと思う。

 司会 図書館は書籍をどこで買うのが理想的か。

 片山 例えば公共事業は地元優先でやっている。企業の育成という面もあるが批判があるのも事実。特定の本屋からだけ買うのはできないが、鳥取は県内主力書店から輪番制で購入している。

 阿刀田 図書館に頻繁に来てもらい書店の話を聞けば納入業者はおのずと決まるものだ。=敬称略

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 <パネリスト>

阿刀田(あとうだ)高さん(79)

 小説家・山梨県立図書館長

片山善博さん(62)

 慶応大教授・前鳥取県知事・元総務相

花井裕一郎さん(51)

 演出家・元長野県小布施町立図書館まちとしょテラソ館長

宮川大輔さん(39)

 春光堂書店(甲府市)専務取締役

高須大輔さん(33)

 豊川堂(愛知県豊橋市)専務取締役

司会は文化通信編集長・本の学校副理事長、星野渉さん

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    −−「ブックウオッチング:街の本屋さん 番外編 シンポジウム『街の本屋と図書館の連携を考える』」、『毎日新聞』2014年03月19日(水)付。

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http://mainichi.jp/shimen/news/20140319ddm015040003000c.html





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