覚え書:「書評:魯迅出門 丸川 哲史 著」、『東京新聞』2014年03月23日(日)付。

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魯迅出門 丸川 哲史 著

2014年3月23日


◆世界史的に語り直す
[評者]佐藤賢首都大学東京助教
 いま魯迅から世界を語ることは可能だろうか? かつて中国が「革命」とともに語られた時代は遠く過ぎ去り、文化大革命第二次天安門事件を経て、現代思想の対象として取り上げられることはなくなり、それにともなって魯迅も専ら研究の場でのみ語られるようになった。
 「入門」ではなく「出門」を掲げる本書は、魯迅を研究の領域から解き放つ。そしてもう一度世界史的視野から語り直そうと、「虐殺」「メディア」「ネーション」といった切り口から独創的な魯迅論を展開する。著者は魯迅の仕事が「中国を『現代中国』へと書き換え、生成させることにあった」と述べる。この「現代中国」は単なる時代区分ではなく、中国が近代世界と出会う上で不可避な捩(ねじ)れを含むものであったことを表すための鍵(キー)概念である。魯迅の闘いとはまさにこの捩れとの闘いだった。またそれは西欧近代から<他者>と位置づけられた地域で思想に向かう者が共通して直面する問題であったといえる。
 かつて考えられなかった姿で中国が資本主義世界に入ったいま、西欧近代という尺度のみでは測りきれない現代中国の経験がもつ特殊性を、いかに普遍的に説明するのか? 同時代の中国知識人との対話の産物でもある本書の問いは、中国の内外を問わず、世界史的な思想課題たりうるだろう。
  (インスクリプト・3150円)
 まるかわ・てつし 1963年生まれ。明治大教授。著書『帝国の亡霊』など。
◆もう1冊 
 魯迅著『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇』(竹内好訳・岩波文庫)。封建的な中国社会に巣くう病根を描いた短編集。
    −−「書評:魯迅出門 丸川 哲史 著」、『東京新聞』2014年03月23日(日)付。

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